第7話 空を飛ぶ夢

「武闘家のキョウヤといいます。以後、お見知りおきを」

 青年――キョウヤさんは、そう言ってほほ笑んだ。

「俺は勇者のユーセイだ。よろしくな、キョウヤ」

 キョウヤさんが自己紹介したからか、勇者さまも名乗った。

「僧侶のマシロです」

 マシロも続けて名乗る。

 この流れ、オレも名乗らなきゃいけないよな……?

「ホマレです。…………魔法使いの」

 オレは、名前を言った後に、小さく職業を付け加える。

 ハッキリ言ったら睨まれそうだもん。

 実際、さっき殴りかかってきた人が、オレに痛い視線を向けてきている。

 街を歩く人たちも、オレを見ては眉をひそめる。

 これ、本当に魔法使いオレを歓迎していないみたいだ。

「魔法使いか。すごいなぁ」

 なぜか、キョウヤさんは笑った。

 わけがわからなくて、オレは何も言えない。

「魔法が使えたら、空を飛べるんだろうな」

 キョウヤさんは、夢見る表情で空を見上げる。

 ……憧れてるのかな。

「……飛んでみます?」

「本当かい!?」

 オレの言葉に、すぐに食いついた。

 やっぱり、憧れてるのかも。

「飛行魔法は、法に引っかからないので」

「ハハハ。法律のことを考えるとは真面目だなぁ」

 なんかいい人だな、と思った。

 明るいし、爽やかだし。

「手、貸してください」

 オレは、キョウヤさんに左手を差し出す。

「ちょっと待ってくれ!」

 キョウヤさんは、スーハースーハー……と、何度も深呼吸した。

「よろしくお願いします」

 そして、おかしくて笑ってしまうくらい、今からすることに合わない真面目な顔になる。

 ただ空を飛ぶだけなのに。

 キョウヤさんが重ねた手を、軽く握る。

「離さないでくださいね」

 それだけ言って、オレは空に飛び上がった。

「おわぁっ!?」

 キョウヤさんの悲鳴が、あたりに響く。

 それを聞きながら、街を見下ろせる高さまで飛び上がった。

「どうですか?」

「すごい……すごいよ……! 素晴らしい!」

 キョウヤさんの表情は、キラキラと輝いている。

 喜んでくれたみたいだ。良かった。


「――もう、離していいですよ」

 地面に降り立って、キョウヤさんに伝えた。

「ありがとう。本当に感慨深い体験だった」

 あぁ……オレは、人の喜ぶ顔を見るのが好きなんだな。

 心がポカポカして、自然と笑顔になる。

「ホマレ、すごいね!」

 マシロが、オレに飛びついた。

 風に乗って、花の香りがする。

「ちょっ、近いって!!」

「? ごめんね」

 マシロはすぐに距離を取る。

 オレは、ホッと息を吐く。

 そんなオレたちを、勇者さまはじっと見つめていた。

「……俺は、すごいやつを見つけてしまった」

 勇者さまが言った言葉を、オレは聞き取れなかった。

 でも、悪い言葉じゃなかった――それだけはわかった。


 ☆


 魔王は、水晶玉を見つめていた。

「……」

 その瞳に映るのは、ホマレの姿だ。

「勇者のやつ、すごいやつを拾ったな」

 飛行魔法は、人の身体を浮かばせる分、魔力消費が激しい。

 それを2人分だ。

 空を飛んだあと、疲労したようすはない。

 どれだけ魔力を蓄えているのやら。

「しかも、無口頭呪文ときた……」

 魔王は額に手を当てる。

 無口頭呪文は、魔法を短時間で出せるため、使えると戦闘において有利だ。

 しかし、習得するまでに時間がかかる。

 それだけ難しいことなのだ。

「あーあ、羨ましい。……なんて、おれのほうが若いけど。ははっ」

 魔王は、カラカラと笑い声を上げる。

 そして、ゆっくり息を吐くと、ニヤリと笑う。

「おれを殺しにくるのは、いつになることやら」

 そのあと、再び水晶玉での観察を始めた。

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