大武闘会
第6話 武闘家のキョウヤ(2025/01/11改稿)
オレは勇者さまとマシロと3人で歩いていた。
大人の国を出て何日経っただろう。
ようやくここまで来た。
でも……このところずっと草木が生えていない、砂しかない世界だ。
「休憩できる場所、ないの……?」
マシロがフラフラになりながら言う。
ないからこんなことになってるんだよ。
「いくらなんでも、男性の国までの道が過酷すぎるでしょ……」
「まあまあ、そういう国だから」
ぐちぐち文句を言うマシロをなだめる。
「なんでホマレはそんなに元気なの〜。どこからどう見ても室内で過ごしてるタイプなのに……」
「魔法使いの体力舐めんな」
……とは言ったものの、正直に言うとオレも疲れている。
このままだと「疲れた」としか言えなくなりそう。
何か気が紛れる話題はないかな。
「そういえば勇者さまは、どうして大人の国を目指していたんですか?」
「あっ、それ、とっても気になる!」
マシロが勇者さまの話題になった途端に元気を取り戻した。
そんなマシロに呆れながら、オレは考える。
気になってたんだよな。
大人の国に到着して1日滞在したあと、すぐに出発した。
大人の国にいる間に行った場所といえば、防具屋とオレの両親の家、そして宿くらい。
他はだいたい人助けをしていた。
ということは、もちろん観光しに行ったわけではないだろう。
観光以外でやることは……特に思いつかない。
「あぁ……それか。言ってなかったな」
勇者さまは腕を組む。
「大人の国には、身体を休めに行く冒険者が多いんじゃないかと思ってな。魔王を討伐するには、仲間が絶対不可欠なのさ」
たしかに大人の国は、のんびりできるくらいのどかだった。
……魔物が出たことを除けばの話だけど。
「あの、勇者さま」
「どうした? ホマレ」
「国の中に魔物が出るなんて、おかしいと思いませんか? 国に魔物が入り込むのは数年に一度あるかないかくらいだそうですよ。たいていは門番がなんとかするので」
「ああ、それはよく知らん。……魔王が送り込んだんじゃないか? 偵察要員か何かで」
ずいぶんフワフワしてるな。
さすがの勇者さまでもわからないのか……。
☆
――一方そのころ、魔物の国にて。
「チッ。勇者め、余計なことを言いやがって……」
魔王はいつものように勇者一行を観察していた。
そうしたら魔物を自分が送り込んだことにされるのだから、たまったものじゃない。
「送るわけねーだろ。アホか。自力で入れたことを褒めてやってほしいな。偵察ならおれが自分で行くよ。これじゃあ、おれの評判が悪くなるばっかりだ。……あれだから勇者は嫌いなんだよ、まったく」
ため息をつきながらガシガシと頭をかく。
勇者に殺された魔物を思い出すと、魔王はまた1つため息をついた。
「あいつは人間と仲良くなりたかっただけなのに……。不器用なんだよなぁ」
☆
「やったぁー! とーちゃくだぁ!」
マシロが、わあーい! と大きくバンザイする。
勇者さまも疲れていたのか、深く息を吐いた。
「ようやくだな」
男性の国にやっと着いた。
勇者さまを先頭に、街に繋がる大きな門をくぐる。
その直後だった。
ヒュンッと音がして、オレに拳が飛んできた。
間一髪、魔法で透明な壁を作って攻撃を防ぐ。
「っぶね……。しゃがんでたら、マシロに当たってたな。大丈夫か?」
オレはマシロに聞く。
マシロは目を丸くしながら、コクコクうなずいた。
そして眉を下げる。
「ごめん。魔法、街で使っちゃダメなんだよね」
「いや大丈夫。使っちゃいけないのは攻撃魔法だから」
「そうだっけ? 良かった」
マシロはホッと胸をなでおろした。
それよりさっきのは……。
オレは拳が飛んできた方向を見た。
そこには格闘技っぽい構えを取っている男がいた。
ということは、格闘家だろうか?
「何者だ!」
いや、こっちのセリフ!!
なんなんだよ、急に殴りかかってきて……!
「俺の仲間に何か用か?」
勇者さまが男を睨む。
「お前、魔法使いだろう? 魔法使いはお断りだ。ここには魔法を使うものなんていない。格闘家、武闘家、剣士……身体を張って戦うものだけが入って良い国だ!」
「僧侶はダメなの?」
「大丈夫です!」
マシロが小さく首をかしげると、男は気をつけをして返答する。
さては、マシロの美少女ぶりにやられたな?
「とにかく、魔法使いはお断りだ!」
男が、またオレに殴りかかろうとする。
「――待て」
オレが対応しようとしたとき、優しそうで芯のある声が響いた。
全員が声の聞こえた方を見る。
男のさらに後ろから歩いてくるのは、頭にハチマキを巻いた青年だった。
「やめろ。人をいじめてはいけない」
「……」
男は黙り込むと構えをといた。
そして、オレたちから距離を取る。
ハチマキの青年は男と場所を入れ替えるようにこちらへ近づくと、こう名乗った。
「初めまして。武闘家のキョウヤといいます。以後、お見知りおきを」
優しそうな彼には、強者に感じるたしかな威圧感があった。
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