第3話 再会(2025/01/11改稿)
オレは勇者さまと一緒に、店主さんに書いてもらった地図を使って街を歩いていた。
オレたちの後ろにはマシロさんもいる。
防具屋から1キロほど離れたけど、この人はずっと勇者さまを見て後をついてくる。
「あの……なんでついてきているんですか?」
「仲間だからです! 勇者さまが一緒においでと言ってくださりました」
「ああ、仲間ね……」
いつの間に仲間になったのやら。
オレが知らないうちに「僧侶」という癒やしの専門家が、勇者さまに勧誘を受けていたようだ。
勇者さまに興味しんしんだったから、あっという間に仲間になるのもうなずける。
それに一人で旅をしていたらしいから、勇者さまの仲間になるのを止める人はいない。
全部マシロさんの自己判断で行動できるんだよな。
「むふふー」
すごく楽しそうだな。
顔が整っているから可愛らしい。
マシロさんはオレの隣に並ぶと、にっこり笑顔を見せた。
「今から君のご両親に会えるのでしょう? どんな方なのか気になります〜!」
「……それはオレもです」
楽しみだし、どんな人か気になる。
でも、不安もあるんだ。
両親と言っても、名前も顔も知らない人だ。
もし会えたとして、その人が本当にオレの親なのかはわからないし、親もオレのことを覚えているのかどうか……。
オレはもう14歳だ。
両親と別れて10年以上経つ。
10年も会っていない子どものことは忘れてしまっているかもしれない。
それに最後に会ったのは赤ん坊の頃だ。
今のオレの顔を見ても、息子だとわからないかもしれない。
「ところで、君の名前は?」
急に話を変えないでください。
すっかり忘れていたけど、自己紹介してなかったな。
でも店主さんとか勇者さまとか、周りの人の話を聞いていればわかると思うのはオレだけかな。
「ホマレです」
「ホマレかぁ……素敵な名前ですね。――あっ、敬語やめませんか? 歳も近そうだし、タメ語にしましょう」
マシロさんにキラキラな瞳を向けられて、初めて目があった。
ほほ笑む彼女にドキリとしてしまう。
オレはすぐに目をそらした。
な、なんだ今の……?
「わかった。よろしくな、マシロ」
なるべく平静を装う。
……ドキッとしたのは、きっとビックリしただけ。
「よろしくね、ホマレ。何歳なの? わたしは15歳だよ」
「え、1個上?」
またマシロを見てしまった。
目をそらした意味がない。
「えへへー。身長は負けてるけどね」
ま、まさか年上だとは。
いやでも1つしか違わないんだから、そんなに驚くことでもないか……。
「むっ。子どもっぽいと思ってた? ひっどいなぁ魔法使いくん」
あれ? 魔法使いって話したっけ?
オレが首をかしげると、マシロはクスクスと小さな笑い声を上げた。
「服装で一目瞭然だよ」
あ、そっか。
ザ・魔法使いって衣装だもんな、オレ。
「ほら、2人とも。ちゃんと前を見て歩けよー」
隣を歩いていた勇者さまが、子どもに注意するように言った。
「仲良くすることは問題ないが、周りに迷惑をかけるのはいけないぞ」
「「はい!」」
オレとマシロは同時に返事をする。
勇者さまはお兄さんみたいだな。
「ところで、ホマレ。地図の方はどうだ?」
「えっと……」
オレは地図を見る。
店主さんが書いてくれた地図は正確で、周りの店の名前と地図に書かれた名称が一致しているので、ここまでに道を間違えた様子はない。
次は……。
「あの家が目的地です」
マシロと話している間に、目的地付近までたどり着いていたようだ。
家の特徴は真っ白い壁に下手くそなラクガキがしてあること……と地図には書かれてあるが、そのとおりだ。
なんで大人の国でラクガキが……?
子どもがいないんだから、そんな馬鹿馬鹿しいことをする人はいないと思うけどな。
ラクガキ以外は至って普通の民家だ。
オレたちは家の門まで行く。
ここで呼び鈴を鳴らせば――。
「いってきます」
「あなた、ネクタイが歪んでいるわ」
呼び鈴を鳴らそうとしたとき、男女の会話とともに玄関が開いた。
まず中から出てきたのは眼鏡をかけた博識そうな男性だった。
続いて出てきたのは、静かな雰囲気の優しそうな女性。
青い長髪で、ちょっとジト目な人。
2人は門の前に立つオレたちに気がついた。
「わ……ホマレにそっくり」
「似てるな」
マシロと勇者さまが、口々に言う。
具体的に言うとどこが似てますか?
「ジト目だよ」
「目がそっくりだ」
目……?
たしかに、鏡で見る自分の顔と似ているような気がしなくもない……ような、気が……。
「自分じゃわからないよね」
マシロが苦笑して、もう一度「そっくりだよ」と言った。
「あら? あなた……」
「まさか……」
女性はオレをじっと見つめる。
男性も驚いた様子でオレに目を向けている。
なんだか緊張してきた。
知らない人にこんなに見つめられるのは慣れてない。
「えっ、えっと、はじめまして……」
オレは三角帽子を脱いで、小さくおじぎした。
次の言葉が出てこない。
ホマレと言います。
子どもの国から来ました。
両親を探しています。
そう言えたらいいのに、のどが締めつけられたみたいに動かない。
どのくらい経っただろうか。
女性がようやく口を開いた。
「ホマレなの?」
その言葉で時が止まったような気がした。
名前を呼ばれるとは思わなかったから。
――この人たちは、本当にオレの両親なんだろうか。
息子を10年以上ずっと覚えていて、今こうして成長したオレを赤ん坊のころと重ね合わせているのだろうか。
赤ん坊と重なる何かがあるのだろうか?
そういうのって、親にはわかるものなのかな……?
「……はい」
オレは緊張しながらうなずいた。
親子の絆――なんてものは知らないけれど、この人たちに不思議と懐かしさを覚えたんだ。
女性と男性は顔を見合わせた。
それからオレを愛おしそうに見る。
「おかえりなさい。ホマレ」
「おかえり」
二人の温かい大きな手が、オレの頭を包みこんだ。
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