第3話 再会

 オレは、勇者さまと一緒に、店主さんに書いてもらった地図を使って、街を歩いていた。

 オレたちの後ろには、マシロさんもいる。

 防具屋から1キロほど離れたけど、この人はずっと勇者さまを見て、後をついてくる。

「あの……なんでついてきているんですか?」

「仲間だからです! 勇者さまが、一緒においでって言ってくださいました」

「ああ、仲間ね……」

 いつの間に、仲間になったのやら。

 オレが知らないうちに「僧侶」という癒やしの専門家が、勇者さまに勧誘を受けていたようだ。

 勇者さまに興味しんしんだったから、あっという間に仲間になるのも、うなずける。

 それに一人で旅をしていたらしいから、勇者さまの仲間になるのを止める人はいない。

 全部マシロさんの、自己判断で行動できるんだよな。

「むふふー」

 すごく楽しそうだな。

「だって、今から君のご両親に会えるのでしょう? どんな方なのか気になります〜!」

「……それは、オレも」

 楽しみだし、どんな人か気になる。

 でも、不安もあるんだ。

 両親と言っても、名前も顔も知らない人だ。

 もし会えたとして、その人が本当にオレの親なのかはわからないし、親もオレのことを覚えているのかどうか……。

 オレは、もう十四歳だ。

 両親と別れて、十年以上経つ。

 十年も会っていない子どものことなんて、覚えているとは思えない。

「ところで、君の名前は?」

 なんなんだよ、急に話を変えやがって……。

「ホマレです」

「ホマレかぁ……いい名前。――あっ、敬語やめません? 歳も近そうだし、タメ語にしましょう」

 マシロさんは、キラキラな瞳を向けてきた。

 初めて、目があった。

 ほほ笑む彼女に、不意に、ドキリとしてしまう。

 オレは、すぐに目をそらした。

 これは、これはあれだ!

 ビックリしただけだ……!

「わかった。よろしくな、マシロ」

 なるべく平静を装う。

「よろしくね、ホマレ。ちなみに、何歳? わたしは十五歳なんだけど」

「えっ――一個年上!?」

 またマシロを見てしまった。

 目をそらした意味がない。

「あはは、身長は負けてるけどね」

 ま、まさか、年上だとは……。

「むっ。子どもっぽいと思ってた? ひっどいなぁ、魔法使いくん」

 あれ? 魔法使いって話したっけ?

 オレが首をかしげると、マシロはクスクスと、小さな笑い声を上げた。

「話してても、話してなくても、装備で一目瞭然だよ」

「あっ、装備か……」

 The・魔法使いって装備だもんな、オレ。

 そりゃあわかるか。

「ほら、二人とも。ちゃんと前を見て歩けよー」

 勇者さまが、子どもに注意するように言った。

「仲良くすることは問題ないが、周りに迷惑をかけるのはいけないぞ」

「「はい!」」

 オレとマシロは、同時に返事をする。

「ところで、ホマレ。地図の方はどうだ?」

「えっと……」

 オレは、地図を見る。

 店主さんが書いてくれた地図は正確で、ここまでに道を間違えた様子はない。

 次は……。

「あの家が、目的地です」

 マシロと話している間に、目的地付近までたどり着いていたようだ。

 オレたちは、家の玄関まで行く。

 至って普通の民家だな。

 ここで、呼び鈴を鳴らせば――。

「いってきます」

「あなた、ネクタイが歪んでいるわ」

 呼び鈴を鳴らそうとしたとき、男女の会話とともに玄関が開いた。

 まず中から出てきたのは、博識そうな男性だった。

 眼鏡をかけていて、静かな雰囲気をしている。

 続いて出てきたのは、優しそうな女性だ。

 青い長髪で、ちょっとジト目な人。

 そんな二人と、しっかり目が合う。

「わ……ホマレにそっくり」

「似てるな」

 マシロと勇者さまが、口々に言う。

「あら? あなた……」

 女性は、オレをじっと見つめる。

「まさか……」

 男性も驚いた様子で、オレに目を向けている。

 どのくらい経っただろうか。

 女性がようやく口を開いた。

「ホマレなの?」

 その言葉で、時が止まったかと思えた。

 ――この人たちは、本当にオレの両親なんだろうか。

 オレのことを、十年以上ずっと覚えていて、今こうして成長した子を、赤ん坊のころと重ね合わせているのだろうか。

 赤ん坊と少年には、重なる面影なんてあるんだろうか?

 そういうのって、親にはわかるもんなのかな――?

「……はい」

 オレは、うなずいた。

 親子の絆――なんて、そんなものかは知らないけれど、この人たちに、不思議と懐かしさを覚えたんだ。

 女性と男性は、顔を見合わせた。

 それから、オレを愛おしそうに見る。

「おかえりなさい。ホマレ」

「おかえり」

 二人の温かい大きな手が、オレの頭を包みこんだ。

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