下
晶は、俺に義理の兄と結ばれる展開を選ばせたいのだろう。
だったら、乗ってやるのも良い。
所詮はゲームだし。
「分かった。じゃあ、第三王子と結婚するしかないな」
「良いの?本当に?」
「仕方ないだろ。バッドエンドにはしたくないし」
「兄貴、分かってるー。じゃあ遠慮なく教会に行くね!」
第三王子は教会で待っているらしい。
もし、第三王子と結婚する意思があるのなら、主人公は教会に向かう選択肢を取る必要がある。
行かなければ、この恋は終わりとなる。
全く、乙女ゲームってのは……面倒だな。
「あら、二人とも今日はいつもと違うゲームをしてるのね」
美由貴さんが言う。
先程までコーヒーを飲みながらテーブルで談笑していて、こちらには気を留めていない感じの親父と美由貴さんだったが、気がつくと二人とも俺たちのゲームを見ているようだった。
ちょうど良いや。
あとの助言は俺から美由貴さんに変わってもらって、俺は部屋に戻ろう。
「そうなんだ。晶がやりたいって言うから、買ってみたんだ。じゃあ美由貴さん、後はお願いしますね」
晶よ、後は
俺は部屋に帰る。
「じゃあな晶、俺は部屋に戻るから、ゆっくりやっててくれ」
えー、行っちゃうのー?と困り声の晶を尻目に、俺はそそくさと廊下に向かった。
「な、なにこれ……」
階段を登ろうとした所で、リビングから晶の弱々しい声が聞こえてきた。
いやいや、そんな声出しても、俺は流石に付き合いきれないから。部屋に帰るから。
「あら、なんで閉じ込められたのかしら?」
今度は美由貴さんの声。
「わ、わかんない……なんでー」
ん?閉じ込められた?
俺は流石に気になってきた。
結局、俺はリビングに戻ってきた。
晶のやっているゲームの画面を確認する。
本当だ。
主人公は塔の中に閉じ込められてた。
「なあ、晶……これはバッドエンド……なのか?」
「分かんないよ。教会に行く選択肢を選んだはずなんだけど……」
教会に行こうとした主人公の前に、元のゲームのメインヒロインが現れた。
そして、主人公を塔の中に閉じ込めてしまった。
主人公は教会に行く事が叶わない。
どうなってるんだ……これ。
「なあ、晶、これはどう言う展開なんだ?これがやりたかったんだろ?」
「う……僕がみたネットのレビューでは、こんな展開書いてなかったもん。義理の兄である第三王子と結ばれるって書いてあったもん」
晶は一生懸命に、塔を出る方法を探していた。
扉は鍵が掛かっている。
塔の中には、手がかりになりそうなアイテムが幾つかあって、それらを調べて外への手がかりを探す事ができる。
俺は、気がついた。
これは……脱出ゲームだ。
いつのまにか、脱出ゲームが始まったのだ。
気がついたら、主人公の立ち絵もイラスト調ではなく、影絵みたいな黒い輪郭だけになっていた。
おいおい……完全にジャンル変わってるぞ。
「晶……ちょっと晶がみたレビューを見せてくれないか」
「うん」
俺は晶のスマホを受け取ると、そこに書かれていたレビューを読んだ。
なるほど、確かに甘々の恋愛ゲームですって書かれている。
だが、そのままスクロールすると、別の人が書いたレビューが載っていた。
上に書いてある事は嘘です。
恋愛ゲームに見せかけて、本当は脱出ゲームですからみんな気をつけて……などと書いてあった。
なるほど。
俺は今、理解した。
晶……見事に引っかかったな……
「どうやら、このゲーム本当は脱出ゲームらしいぞ……」
「ええっ……何でー」
「まあ、がんばれ」
「待って兄貴、見捨てないでー」
泣きそうになりながら頼ってきた晶を、見捨てる事は出来なかった。
「わかった。謎解きを手伝ってやる」
「兄貴、お願い」
「あらあら、涼太さん、何だか分からなけどごめんなさいね」
「いえいえ、美由貴さん。困っている
「おや、何だか楽しそうだね」
親父も気になったのか、ソファの方にやって来た。
「あ、親父。ちょうど良いや。この謎なんだけどさー」
「ほう、任せなさい。こう言うのは得意なんだ」
「うう……ありがとう」
結局、俺たちは家族総出で脱出ゲームの謎解きに挑戦する事になった。
その甲斐あって、晶が操作する主人公は無事に塔を脱出する事ができたんだ。
無事に塔を脱出した時には、家族でハイタッチしていた。
「晶、そういえば教会に行かないと」
「あ、そうだった」
俺も晶も、その頃には、第三王子の事などすっかり忘れていた。
慌てて教会に向かう選択肢を選ぶ晶。
それにしても、なぜ急に元のゲームのメインヒロインは主人公を閉じ込めたりしたんだ。
教会の前には、黒いローブに身を包んだ悪そうな魔法使いが立っていた。
どうやら、この魔法使いが黒幕だったらしい。
魔法使いは元のゲームのメインヒロインに化けて、主人公を塔に閉じ込めたのだった。
「せっかく、閉じ込めたのに出て来るとは思った以上に頭が回るようじゃのう……参ったぞ」
魔法使いが喋った。
ここくらいしか出番がない魔法使いにもボイス付いてるのか……
「あら、この声……」
「まさか……」
美由貴さんと晶が顔を見合わせる。
俺も、どこかで聞いた様な気がするが……うまく思い出せない。
誰だっただろうか……
「父さんだ」
晶が、ぼそっと呟いた
「えっ……この声……
「うん……間違いない……」
「そうね……あの人……ね」
美由貴さんと晶が同時に頷く。
健さんは確か、俳優をやっている。
だったら、声の演技で出ていたとしてもまあ、あり得なくはない。
「そうか……晶が俺に教えたかったのは……そう言う事だったか」
「ち、違うよ兄貴。これは偶然だからね」
「わかったわかった……そう言う事にしておいてやるよ」
「違うってばー」
その後、俺はエンサム2で晶にボコボコにされた。
この恋愛ゲームに見せかけた脱出ゲームは結局、それ以来遊ばなくなった。
とは言え一応クリアしたから、十分に元は取れてる気がする。
完
じつは義妹と過ごすこんな毎日も悪くないなと思っていたりしまして…… 海猫ほたる @ykohyama
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