第19話 アレンとアルミラ

「────あの時、どうやって俺の攻撃を防いだんだ?」


 突然、背後に現れたアレスさんはそう言って、俺の目を強く睨んだ。


 あの時……? アレスさんに攻撃された時だよな?


 俺はアレスさんに襲われた時の記憶を思い出す。


 アレスさんからの攻撃は、リリアが突然現れて助けてくれたのが1回。


 そして、俺の周りに謎のバリアが出現して攻撃を弾いたのが1回。


 アレスさんが聞きたいのは、多分後者の方だろう。


「あの変なバリアですよね……? それは俺もよく分からないんですよ」


 俺はアレスさんの目をしっかり見て、そう答えた。


「……ちっ。嘘はついてねぇみたいだな」


 すると、アレスさんは不機嫌そうに舌打ちをするも、食い下がってくれた。



「待ちなさいよ! アレス! あなた謝りなさいよ! 勘違いで襲ったんでしょ?」


 すると、そんな態度のアレスさんの頭をアルミラさんが思いっきり引っぱたいた。


「えっ!?」


 え? あ、アルミラさん……??


 俺はアルミラさんの突然の凶行に言葉を失ってしまう。


 アレスさん、ブチ切れてアルミラさんをボコボコにするんじゃ……。


 俺は最悪の事態に、焦りまくってしまう。


「い、いや……俺はただ……ノアを助けるために……こいつが洗脳してるから……」


 すると、アレスさんはバツが悪そうに、頭をポリポリと掻き始める。


 あれ……? もしかして、アレスさんって、アルミラさんに対して強く出れないのか?


 アレスさんのしおらしい態度を見て、俺はそう気づいてしまった。


「だーかーら! それが勘違いだったんでしょ! 謝りなさいよ! バカアレス!」


 またしてもアルミラさんは追い打ちと言わんばかりの一撃を、アレスさんの頭に叩き込んでしまった。


「そ、それは……すまなかった。俺が……悪かった……」


 アレスさんは不服そうな表情ながらも、小さな声で俺にそう謝った。


「い、いえ、別に……そんな、怪我もしてないし……大丈夫ですよ」


 俺はアレスさんの謝罪を受け、むしろ動揺してしまう。


 アレスさんは腐っても……いや、腐ってもは失礼だな。


 アレスさんはあの救世の勇者パーティーの戦士であり、数多の人々を救ってきた英雄だ。


 そんなアレスさんに、謝られるなんて……なんかちょっと悪いことをしている気分になってしまう。


「ごめんね。うちの二人が迷惑かけちゃって」


 すると、アルミラさんは申し訳なさそうに、深々と頭を下げた。


 そして、それを見るアレスさんは更に気まずそうな表情で、頬をポリポリと掻いていた。


 きっと、この二人は仲がいいんだろう。


 原作ではあまり触れられていなかったけど、こういう背景もあるんだなぁ……。


 俺は二人を見ながら、うんうんと小刻みに頷いて感心してしまう。



「でも、まだ俺は納得してねぇからな。俺の攻撃があのバリアに防がれたこと。あれは明らかにおかしい……」


 すると、アレスさんは俺の目を見ながら、またあの時の話をし始めた。


「ま、待ってください。俺だって分かんないですよ? それをどうこう言われても……」


 俺はアレスさんの治らない懐疑的な態度に、そう訴えた。


 俺だって、あのバリアが何なのか分からない。


 リリアは不滅種の加護だっけ……?


 まぁとにかく、そんなことを言ってたけど、そんなのは思い当たる節なんて無いし……。


「まぁ確かに……君ってちょっと変だよね。君にはそういう才能は無さそうだけど……」


 困り果てる俺に、アルミラさんは今度は味方をしてくれずにそう言った。


 俺のことを、じっと二人のSランク超えの冒険者が見つめてくる。


 その不思議な状況に、俺は困惑してしまう。



「……あ、ああ! そ、そう言えば、ジルさんはいないんですか?」


 俺は話題を転換すべく、アルミラさんにジルさんのことを尋ねた。


「ん? ジル? あー、今日は見てないね。明日は来ると思うんだけど……」


 すると、アルミラさんは遠くの方を眺めながら、心配そうな顔でそう言った。



 そうか。今日は来てないのか……。


 ジルさんはきっと、あの件のことを根に持っているはずだ。


 早めに誤解を解かないといけないのに……。






 *****






 あの後、俺は勇者パーティーと合同でクエストを受けた。


 明日のクエストは、俺含めた七人での攻略になる。


 どうだろう。ノア様は来てくれるかな。


 これを機に勇者パーティーの人達との関係を復活させてくれると嬉しいんだけどなぁ。


 俺は不安な気持ちになりながらも、冒険者ギルドを後にした。



「あれ……?」


 すると、冒険者ギルドを出てすぐにジルさんの姿が目に入った。


 ジルさんは深々とフードを被っていて、顔のほとんどが隠れていて見えなかった。


 それでも、明らかな貴族オーラというか、ネームドキャラ特有のモブじゃないオーラが、佇まいから醸し出されていた。


「俺はまだ認めてないぞ。お前みたいな何の才能もないクズが……ノアを……」


 すると、ジルさんはゆっくりと俺の方へ近づき、冷たい声でそう言い放った。


「あ、あれは誤解なんですよ! 俺は別にノア様を操ったりしてないですよ!」


 俺はジルさんの方を向き、必死に誤解であることを訴えた。


「そんなこと分かってる! 俺の勘違いだって分かってんだよ!」


 すると、ジルさんは大声で叫びながら、俺の両肩を強く掴んだ。


 ジルさんの大きな翡翠色の瞳が、強い意志を持って俺の瞳を睨む。


「それでも……俺は……まだお前のことを認めない」


 ジルさんはそう言い捨てると、そのまま冒険者ギルドの方へ入って行った。


 俺はジルさんの気迫に、その場で数秒間呆然と立ち尽くしてしまった。

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