第13話 加護の解放

「あ、あの……本当にどちら様なんですか? 助けてくれたのは嬉しいんですけど……」


 俺は一旦冷静を取り戻し、目の前ののじゃロリ鬼幼女にそう尋ねる。


「────ふふっ、そんな呑気なことを言ってる暇があるのか? あの男はお前をまだ殺そうとしているぞ?」


 鬼幼女は悪戯な笑みを浮かべ、その伸びた赤い爪でアレスさんの方を指した。


「えっ!?」


 俺が急いでアレスさんの方を振り向く。


 すると、アレスさんは既に俺の目の前まで到達していた。


 や、やばい! 早く逃げなきゃ……。


 俺は急いで立ち上がり、アレスさんから距離を取ろうとする。


「ああ? 逃げんな! クズ野郎!」


 俺は全力で地面を蹴った……と思ったが、アレスさんの足に引っ掛けられ、反動で俺は無様に転んでしまった。


「あっ……」


 俺は地面に蹲りながら、目の前まで迫るアレスさんを見つめる。


 アレスさんの目は未だに殺気が宿ったまま、俺を睨んでいた。


 まずい。さっきから何も変わってない。


 さっきの攻撃を何とか凌いだところで、目の前にいるのはレベル100を超える怪物だ。


 問題は一向に解決していない。


 俺は首筋に流れる汗の感触を感じながら、解決策を必死に考える。


「お前も色々大変じゃなぁ。ふふっ、私の力を貸してやろうか?」


 すると、俺とアレスさんの間に鬼幼女が割り込み、膝を曲げて俺の顔に視線を合わせる。


「お前……どうやってさっきの攻撃を防いだ? お前は何なんだ? まぁ、どっちにしろ、そいつを守るってんのなら子供だろうと容赦しない」


 そんな鬼幼女を、アレスさんは怪訝な視線で見つめながらも、手に持つ大斧を振り上げる。


 振り上げられた大斧を見て、さっきのとてつもない威力の攻撃が脳裏を過ぎる。


 まずい。


 俺だけじゃなくて、この子まで巻き込まれるかもしれない。


 俺の頭の中で、そんな最悪な想像が浮かび上がる。


「止まれ。動くな」


 すると、そんな危機にいるはずの鬼幼女は振り向きもせず、大斧を振り上げたままのアレスさんにそう命じた。


「───────はっっ!? ああ!? な、なんだ……動けない……!?」


 アレスさんは鬼幼女の言う通り、急にピタリと固まってしまった。


 アレスさんは自分の体が動かないことに驚愕し、困惑混じりの怒号を上げる。


 な、何が起きているんだ……?


 アレスさんを……触れもせずに止めた……?


 俺も目の前で起きた出来事に、ただ驚愕するしかなかった。


「それで、どうするんじゃ? 私の力を貸してやろうか? グレイグ」


 すると、鬼幼女は小悪魔のような悪戯な笑みで、驚いたままの俺に手を差し出した。


 俺は鬼幼女を怪訝な目つきで見つめ返す。


「き、君は……俺を助けてくれるのか?」


「そう言っておるじゃろう? 私の手を取れば、その契約は成立する。さぁ、手を取れ。グレイグ」


 俺がそう尋ねると、鬼幼女は真剣な表情でそう答えた。


 本当に、こんな得体の知れない幼女が、俺を都合良く助けてくれるのか?


 そもそも、この子は一体何者で、この子の目的はなんなんだ?


 いや、どっちにしろ俺には選択肢なんて残されてないか。


 死ぬか、それ以外か……か。


「分かった。俺を助けてくれ」


 俺は悲しい結論に辿り着き、鬼幼女の手を取った。


「ふふっ、お前は本当に愚かで弱くて愛いやつだ。私のような災厄の手をまた取ろうとは」


 手を取った瞬間、鬼幼女は悪魔のようなおぞましい笑みで笑った。


 その恐ろしい笑みに、心臓が止まりそうなほどの嫌な予感を覚える。


「─────あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ァァ!!」


 その次の瞬間、俺の頭に電流のような激痛が走った。


 どうやら、嫌な予感は的中してしまったようだった。


 痛くて痛くて死にそうだ。


 電流のような、ハンマーで殴られるような。


 そんな複合的な激痛が、俺の頭蓋を暴れ回る。


 な、なんだこれ!? だ、騙されたのか!?


 この鬼幼女に俺は騙されたのか!?


 俺はのじゃロリの手を取ったことを後悔しながら、何とか痛みに耐えようと踏ん張る。


「ふふっ、少しの我慢じゃ。そうすれば、打ち消し合っていた加護の力を自由に使えるようになる」


 のじゃロリ鬼幼女は俺の頭を優しく、手で撫でる。


 すると、鬼幼女の言う通り、徐々に頭の痛みが引いていく。


 数十秒? いや、もしかしたら数秒かもしれない……そんな長い時間はようやく終わった。


「めちゃくちゃ痛かったんですけど! これはどういうことですか?」


 俺はさっきの激痛の恨みを込め、目の前の鬼幼女にそう訪ねた。


「まぁ、戦ってみれば分かる」


 鬼幼女は手をパンっと叩いた。


「死ねやあああああああああああッッ!!」


 次の瞬間、アレスさんが急に動き始め、俺に大斧を振り下ろそうとする。


「え””っ!?」


 いやいやいやいや、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 絶対死ぬ!!


 こんな攻撃避けられないし、避けられても衝撃波で多分死ぬ。


 ああ、これは流石に死んだ。


 そう思った瞬間だった。


「──────え?」


 俺の脳天に直撃したはずの大斧は、ガンっと音を立てて何かに弾かれる。


 何かは本当によく分からなかった。


 薄い結晶の集まりみたいな壁が、俺の周りに生成された。


 簡単に言うのなら、ゲームでよく見る無機質なバリアみたいなものが急に現れたのだ。

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