第10話 ジルの奪還作戦
冒険者達がひしめき合う冒険者ギルド。
そんな場所で、魔術師ジルは神妙な面持ちで、テーブルに座るパーティーメンバーの顔を見つめる。
はぁ……。
どいつもこいつも危機感の無さそうな顔をしている。
この緊急事態に何を呑気な顔をしているんだ……。
俺は溜息が出そうな状況を嘆きながら、説明のため椅子から立ち上がる。
「おい! これは異常事態だろ!? 勇者パーティーなのに勇者であるノアが抜けたんだぞ? どうするつもりなんだ?」
俺は目の前の二人に向かって、強い語気でそう訴えた。
大声のせいで周りの視線が俺に集まるが、そんなことを気にしている場合ではない。
言った通り、本当に今は異常事態なのだ。
勇者パーティーなのに勇者であるノアが抜けたんだ。
俺達は勇者パーティーであり、SSSランクパーティーでもある。
パーティーメンバーのそれぞれがSランクを優に超える実力を有しているのは事実だ。
しかし、そんなことよりも、『勇者であるノアが在籍している』という事実だけで、他のパーティーメンバーの何倍もの価値を、このパーティーにもたらしてきた。
今、ノアに抜けられたら、俺達のパーティーはそこら辺のSSSランクパーティーに成り下がってしまう。
ノア抜きでは、本当の化け物であるアイツらには勝てない。
それはダメだ。
俺達は最強じゃないダメなんだ。
SSSランクパーティーの中でも、突出した存在ではなければならない。
俺は手のひらに爪を食い込ませ、溢れ出る激情を何とか堪える。
「ノアが抜けた? ふふっ、そっか……良かったじゃん」
すると、そんな俺の雰囲気を全く読み取れないバカがそう呟いた。
この間抜けそうな顔をしている銀髪の修道女はSSランク冒険者の聖女アルミラだ。
ノアほどのネームバリューは無いものの、世界を救う勇者ノアの随行者として、聖女アルミラも予言に記されている。
この女は予言の聖女アルミラであり、虫唾が走るほどのバカ女でもある。
予言にあるからってだけで俺が誘ってやったのに、いつもいつも意味不明な行動ばかりしやがる。
実力は確かなものだが、何を考えているのか分からない。
そんなアルミラの性格に、俺はとっくに嫌気が差していた。
「お前はいつもいつもバカみたいなことしか言わないな……」
俺は大きな溜息を吐きながら、頭を抱える。
「じゃあ、どうすればいいんだよ。俺らが止められることじゃないだろ?」
すると、もう一人のバカがまた口を開く。
この重装の鎧を纏った長身の男は、Sランク冒険者の戦士アレスだ。
コイツはアルミラみたいに何を考えているか分からないんじゃなくて、ただ単にバカだ。
硬いだけしか取り柄がないんだから、喋らないで欲しい。
「はぁ……お前らは本当に馬鹿だな」
俺は目の前の二人にそう大きな溜息を吐き、舌打ちをする。
「あ? なんだよ? じゃあ、お前は何かできんだよ……」
アレスは怪訝そうな表情で俺のことを睨む。
「ふっ。まあ、聞け。俺は重要な情報を持ってる」
俺は鼻で小さく笑いながら、アレスにそう言った。
「───ノアは……とある男に騙されて、勇者パーティーを抜けさせられたんだ」
俺は小さく笑みを浮かべながら、衝撃の事実を述べる。
そう、俺はあの一瞬で見抜いていた。
ノアがあの男に操られていることを。
ちらっと見えた、あの男の手に刻まれていた黒い刻印。
恐らく、あの黒い刻印は禁忌の魔法だ。
そう、つまり、ノアは間違いなく、あの冴えない底辺冒険者のアイツに操られている。
「……は? それは本当なのか?」
「ああ、俺がこの目で見たからな」
俺の言葉を聞くと、アレスは一気に険しい表情になり、テーブルから身を乗り出した。
「じゃあ、ソイツをぶっ殺せばいいんだな? それで解決ってことか?」
アレスはその禍々しい大斧を取り出し、殺意剥き出しでそう言った。
「まぁまぁ落ち着け。アイツは最近いつもノアを傍につけている。そのせいで俺も手が出せないんだ。それに殺人現場なんてノアに見せる訳にはいかないだろ」
俺は殺気立つアレスを宥め、テーブルの上に小さなアイテムを置いた。
「だから……コレを使う」
俺はニヤリと笑い、アレスの方を見る。
アレスもそのアイテムを見ると、小さく笑った。
「空間転送のアイテムか。これでソイツを引き離して倒すんだな?」
アレスは俺の完璧な作戦にやっと気づいたようだった。
「これで、アイツを……」
俺は時計のような形をした魔法アイテムを握り締め、そう小さく呟いた。
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