第9話 消滅
この世界は、ダンジョンが無数に存在する世界だ。
そこらに石を投げればダンジョンの深層に落ちてしまうレベルで沢山ある。
そのためか、30階層のボスはいわゆる使い回しなのが典型である。
そう、俺の目の前に立ちはだかるゴブリンキングのように……。
ゴブリンキングは一般的なボスモンスターの代表格だ。
魔法も剣も、ほとんど標準レベルの攻撃を繰り返す、まさに模範的なボスの鏡。
しかし、所詮は標準レベルの域を出ない。
流石の俺でも、ゴブリンキングくらいの敵は何回も倒したことはある。
俺でもやれるはずだ。
俺は目の前のゴブリンキングを睨み、小さな短剣を構える。
「────グァォオオォオ!!!」
そんな俺に向かって、キングゴブリンは咆哮を上げながら突進してくる。
俺はそんなゴブリンキングの突進を冷静に避け、ゴブリンキングの背中に短剣を突き刺す。
「よ、よし……」
俺はなかなかの手応えを感じながら、悲鳴をあげるゴブリンキングと距離を取る。
そう、これでいいんだ。
地味だがこれでいい。
これをずっと続けるんだ。
相手が魔法に手をつけるまで、俺はただこれを続ける。
それで、俺は勝てる。
これが弱者として、モブとしての戦い方だ。
俺はニヤリと笑い、ノア様にその汚い戦い方を見せつけた。
「すごいです! グレイグさん、めっちゃ強いですよ!」
ノア様はめちゃくちゃ嬉しそうな顔で、俺のことを褒めてくれた。
うん、まぁ嬉しいんだけど、ノア様ならゴブリンキングなんて一秒もかからず始末できるんだよな……?
俺は少しネガティブ思考に陥りそうになりながらも、ゴブリンキングの体力を徐々に削り続けた。
何度も何度もチクチク攻撃を繰り返し、既にゴブリンキングの体力は半分を切った。
「グォォオオオオオオオアオオオ!!」
それでもなお、ゴブリンキングは俺への単調な攻撃を止めなかった。
ゴブリンキングはまた咆哮を上げると、猛スピードで俺へ突進した。
「ふっ、馬鹿め!」
俺はまるでモブのようなことを言いながら、またその突進攻撃を華麗に避けた。
そう、華麗に避けた。
……はずだったんだ。
「危ない!! グレイグさんっ!!」
ノア様の劈くような声が俺の耳を刺した。
その次の瞬間、俺はゴブリンキングの突進からの、ありえないスピードの切り返しに反応できなかった。
絶対に避けられない場所までゴブリンキングの大きな体が見える。
クソ……一撃食らうな。
俺はそんなことを思いつつ、冷静に受身を取ろうと構えた。
大丈夫だ。一発なら余裕で耐えられる。
「――え?」
しかし、その次の瞬間だった。
俺の背中が黒く光った。
すると、俺に当たるはずのゴブリンキングの体が、一部を残して《消滅》した。
俺の体を避けるように、ゴブリンキングの体は消滅し、ただの肉塊になってしまった。
「え……?」
俺は原型を保てず肉塊となって地面に散らばるゴブリンキングを見つめ、ただ唖然と立ち尽くす。
「の、ノア様? 何かしましたか?」
俺は困惑しつつも、後ろで見ているノア様の方を振り返る。
「っ!? 誰が……!!」
すると、なぜかノア様は鬼の形相で俺の方を睨んでいた。
まるで親の仇を睨むような、そんな深い憎悪を込めたノア様の視線が俺に突き刺さる。
「ノア様……? どうしたんですか? これはノア様の魔法じゃ……?」
俺はノア様の初めて見る表情に恐怖を覚えながらも、震えた声でそう尋ねた。
どうしたんだろう。
どうして、そんなに怒っているんだろう?
「私の魔法じゃないですよ。私はあんな高次元な魔法は使えません。これは誰かの魔法です。誰かが、グレイグさんに刻んだ魔法です」
誰かが……俺に刻んだ魔法……?
それにノア様でも使えないような魔法?
俺はノア様の言っていることに違和感を覚える。
そんな凄い人、俺の周りにいたか?
俺はモブとして、主要キャラクターには接触しないことにしていたから、少なくともこの世界でも有名な人物ではないはずだ。
アニメに出ておらず、名前も分からない。
そんな人物が、俺に魔法をかけた?
俺はノア様の言っていることに、そう整理をつける。
「ノア様? そ、それで、どうしてそんなに怒ってるんですか? いい事じゃないですか? 俺になんか凄い魔法がかけられてるって……」
俺は改めてノア様にそう尋ねた。
この魔法が発動してからの、ノア様の様子は何かおかしかった。
この魔法にどうしてそんな憎悪を抱いているのか、俺には理解できなかった。
「私より先にグレイグさんにマーキングするなんて……そんなの許せません……」
ノア様は悔しそうな表情で唇を噛み締め、そう言い放った。
ええ? マーキング?
魔法ってマーキングなのか?
ノア様の独特の価値観に、俺は困惑してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。