悪霊屋敷打毀すぜ!!
室内にはおれたち探偵社の三人と元からいた二人、そしておれたちと共にこの部屋に入った三人、計八人が居る。全員息を整え、思い思いの場所に座り、それぞれの情報を示すこととなった。
まず、モヒカンのギターを持った男が話す。
「オレは無法田弾正(むほうだ だんじょう)、合法(クリーン)な『プロ』の除霊屋だ」
スーツの女性が続いて自己紹介をする。
「私は紹子(しょうこ)……。霊媒堂拝み屋本舗の代表で、この人と同じプロよ」
懐から出した名刺入れから慣れた手つきで名刺を差し出す。『霊媒堂拝み屋本舗』……随分と物々しい名前の店だ。第一こんな仕事にプロなんてあるのか?
探偵帽の女性がおずおずと話す。
「わ、私は狭霧麗華(さぎり れいか)です……ふ、普通の探偵で、今日はこの屋敷の調査に来ただけです……」
免田は前に出ておれらを手で差して語り始める。
「おれを含めたこの三人はこの街の『免田オカルト探偵社』だ。おれが代表の免田四恩」
「俺は日隈、日隈絢三だ。カメラ役兼コイツの助手のバイト」
「おれは蚕飼白です。荒事役のバイトです」
狭霧さん以外の人々が眉をひそめる様な様子を見せる。何かおれたちに文句でもあるのだろうか?
そう思いつつ周囲を見ていると静寂を打ち切って部屋に居た二人組の片方、スーツの男が話始める。スーツはよく見れば所々綻び、傷や汚れの跡が見える。結構この屋敷に滞在していたのだろう。
「……では我々の方も自己紹介させてもらおうか、私は米山彰吾。まあ、先のプロ二人同様、プロって奴だ……この様では形無しだが……。こちらの彼はクルップ。はるばるドイツから来た霊媒師だが、今は見ての通り、ここを守る結界に集中している。彼にはしばらく触れないでやってくれ」
これで怪しげな八人組全員の紹介が終わった……続けて米山が自らの状況を伝え始める。
「君たちも恐らく私たちと同じ……『この屋敷の所有者』を名乗る人間によって除霊を依頼され集められた霊媒師……もとい術師たちだろうが、君たちが見たようにこの屋敷の霊は三種類いる。一体目が『ズタ袋の大男』、二体目が『赤子を生む女』、三体目が『砲弾』。最後の砲弾は4分おきに庭に生物のみに適応する爆風を発生させる以外のことは分かっていない。後の二体は敵対しているようで両者をぶつけると時間稼ぎになるだろう。ちなみにこの屋敷は女の方の霊によって操られているようだ……私たちは君らよりも三日ほど前からこの屋敷に拘束されている。幸い彼と交代で維持している結界によって生命を長らえているが……それもいつまで持つかな」
免田がこちらの状況を報告する。
「お察しの通り、おれたちもアンタら同様依頼されたクチだ。おれたちは総勢九人でこの屋敷に入った。そのうち二人は確実に死んでいる。二人は今も屋敷を逃げ回っているか殺されている……。そこで疑問なんだが……『一人多くないか』?」
入るまえは確かに九人。入った後は……十人? 増えた記憶がない。増えた事も解らなかった。
「オイオイ……一人多いって……ああ、マジか……認識改変系の霊もいるのかよ?」
モヒカンが動揺して米山に訊く。
「我々も霊の能力の詳細はつかみかねている……既に私は同僚が二人『ズタ袋』に殺されているし、クルップは師が『女』に殺されている。戦う意志はとうに折られた。ただ助けを待つだけなんだよ……」
「素人はここに四人いるけど、誰か一人がニセモノってことじゃない?」
紹子と名乗った女がそう言う。
「そんなにプロってのは信用できる基準なのかね……。おれとしちゃ、いの一番に犯人探しに乗り出したアンタが怪しいけどなぁ。それに認識改変系ってのならおれも相手したことあるからな、この中のどいつが犯人でも不思議じゃない」
免田はそう言う。
「ホウ、トーシロの癖に経験豊富じゃねえの兄ちゃん。おめーのツレのそのハクっつう兄ちゃんも相当やるようだし……オレ等でカチコミかけりゃ行けるんと違う?」
モヒカン頭の無法田の眼光が鋭くおれを捉えていた。力強い眼だ。なにか、他にないパワーを感じる。
「我々はこの場を離れるつもりはない……玉砕するつもりならさっさと出て行って……」
『ドガァアアアン!』
米山が話をする途中、部屋の入り口がものすごい音を立てた。
「きゃぁあああ!」
狭霧さんが叫ぶ。
「敵襲だッ、手を貸せ米山!」
クルップと呼ばれた男が初めて口を開く。
米山は急いで床の紋様の中央に座り、クルップと向かい合うように坐禅を組む。部屋は力に満ち溢れる、心なしか少し明るくなったようにも感じられる。
「……ヌウゥウウ……」
『ダァアアン! ガン! ガン! ドガァアアアン!』
だがそれとは対照的に扉の轟音は続き、米山とクルップは苦しそうな表情と脂汗を浮かべている。
「……やはりこの中に敵がいる! 結界が徐々に妨害され始めているッ!」
クルップはそう口走る。
「オイ、どうするよ、やっぱ全員でトッコ―なんじゃねえの?」
「さっさと帰りたいからあたしはそれに賛成だけど」
無法田の提案に紹子は乗る。
「明らかに場馴れしていない人が居るのを忘れるな、ハク君、オッサン、おれと一緒に狭霧さんを守るぞ。とりあえず霊を避けつつ、元居た連中以外はここから移動しよう。少なくともおれら新入り組の中に『怪異』側が居るからな」
「あ、ああ、す、すいません」
「いいんですよ、いざとなったら俺ら三人は対抗手段もあるんで」
日隈さんがそう言って狭霧さんをフォローする。
おれはバットを握る。
「すまんな、君たち。してやれることがあまりなくて……脱出のメドや内通者が排除できれば来てくれ。霊から逃げきれればの話だがな」
米山はそう言う。
「そっちは四人でこっちは二人? ちょっと不公平じゃない?」
紹子がこちらを見てそう言う。
『ドガァアアアン! ガン! ガン!』
「そんなの言ってる場合じゃねえな、プロ二人とトーシロ四人で平等だろ! オラ行くぞオバハン!」
無法田は扉を開き、ギターで扉の前に居た巨大な赤子を叩きつけた。
『ブチブチブッチィイイイイ!』
肉がつぶれる音と共に二メートル近い大きさの赤子はべっちゃりと潰れる。
「ファンネルか、こういうのは弱いみたいだ、ホレ、行くぞ!」
彼は廊下の先へ駆け出す。
「ちょっと、もう!」
紹子も駆け出ていく。
「俺達も行くか」
「待て」
おれは扉の前の廊下で潰れるあの赤子がまだ嫌な気配を放っていることを嗅ぎ取った。まだ何かある。
おれはバットで潰れた赤子の肉を叩く。
「うぐぁああああ!」
『バチャァッ!』
肉の中から先ほど外で吹き飛んだ男とよく似た人間……いや、小人が三人現れ飛び掛かってきた!
おれは部屋の中へ首を引っ込める。
『ジュゥッ!』
「あああああああッ!」
飛び込んできた小人が部屋に入るなり灰になって消えた。恐らくこれが『結界』とやらの効果だろう。
「デカい赤ん坊の中には更にバケモンが入っている……ということか、毎度ちゃんと肉も処理していかなきゃいかんようだな」
免田がそう言う。
「おれが先を行く、日隈さんはおれの後ろに、狭霧さんはその後ろ、最後尾は免田さんがお願いします」
「おう、慎重に行くぞ」
「ひぃいい……」
――
地下の廊下はひんやりとした空気が漂い少しカビ臭い。先程殺した赤子の血はまだバットに付いている……気分が悪いが、それ以上に気を張りすぎておかしくなりそうだ……。先に出たあの自称プロ二人の足跡は何となくわかる。廊下から階段まで幾つかの肉片と赤子の死体が転がっていた、それを見る度に狭霧さんは小さな悲鳴をあげ、おれたちは免田の聖水で肉を焼き消した。
おれたちは一列になり床のフローリングをぎしりと軋ませながら階段へと向かい、地上階へとゆっくりと昇ってゆく。おれたちは取敢えず、黒人男性と老人の二人を探すことにしたのだ。
一階の廊下は暗く、そして静かだ。どこまでも長く続いているようにさえ思う。
「……とりあえず、入った場所であろう玄関隣の部屋を先ず探そう」
免田が後ろから伝える。今のところ順調。
おれたちは長い長い廊下を抜け、ポルターガイストによってボコボコにされた玄関を横目に玄関隣のリビングと思しき部屋に入る。
広い……白いシーツで覆われたソファ、アナログテレビ、後は何もない。奥にはキッチンが見え、ガスコンロやシンクが見える。
「……何もない……?」
気配。
リビングに入ったおれたちの背後……まさか、霊か?
「生きていたか……」
「ひっ……」
「うおおっ……そりゃこっちの台詞だろ……」
免田がそう言った先に立っていたのは、探していた二人の片方、青いスーツの黒人男性であった。
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