第17話 白花、答える
文化祭二日目。
昨日以上にお祭り騒ぎだ。今日が本番だという雰囲気がビシビシ伝わる。
私は少しだけ作業が入ったので早めに登校することになったので黒蜜さんとは先ほど出会ったのだが…。今日もテンションが低い。
前の…引きこもっていたころの黒蜜さんを思い出す。
見た目はギャルでオラオラしてるように見えるけど…繊細な心を持つ黒蜜さん。
私は黒蜜さんにはしょんぼりしてほしくないので今日は一日文化祭を満喫しようと決めた。前日に二人で文化祭を回ろうとメッセージを送っておいたのだ。
午前のうちからポツポツと校外の人が出入りするようになる。気付けば結構な人数になる。外部と言っても保護者か近隣住民のみなのだが、それでも校舎は繁盛している。テーマパークのような人口密度を記録していた。
私と黒蜜さんは片手に焼きそばを持って外のベンチに腰掛ける。
「にしても定番ばっかりだね。」と黒蜜さん。
「確かに。」とつい頷いてしまう。
「焼きそばもそうだけど…メイド喫茶にお化け屋敷…部活動もそれぞれなんか出してたし…。」
「いやぁすごいねぇ、高校の文化祭。」
「でも近所の大学はもっとすごいよ。有名人来てたし。」と黒蜜さん。
「そりゃあね。大学は規模が違うし…。」
ズズッ。麺を啜る音。黒蜜さんは楽しそうではあるが、何か物足りなそうな顔をしていた。私も麺を啜る。うん、美味しい。
午後はどうしようか。と聞こうとしたのだが黒蜜さんが先に意味深な顔で私を見つめるので思わずたじろぐ。
「白花はさ、進学するの?」
「え、う、うん。あまり考えていないけど…たぶん大学には行くだろうね。」
「そっか…。」
考えなくても分かる。今の黒蜜さんの状況は極めて窮屈だ。高校の学費等もただではない。親戚の人から出してもらっているとか。奨学金にも手を出そうと話が進んでいたがそれは親戚の人が止めたらしい。出すからがんばれという善意…あるいは親族からの謝罪なのかもしれない。
そんなお金をもらって学校に行っている黒蜜さんには大学に行く余裕などないのだろう。それは考えれば分かることだが、私はそのことを考えようともしていなかったために、今の今まで気づかなかった。
「…。」
謝るべきか…。それは逆に失礼か。悩んで沈黙を選ぶあたりに、私の弱さを感じる。
「私は、就職するよ。どこで働くかまでは決めてないんだけど…都会で働くのは憧れるよね。」
黒蜜さんはからげんきな声で話す。
「う、うん。」と私はなんとか相槌をうつ。
もっと楽しい話をしたいな。でも、黒蜜さんからこの話題を出したし、なにより未来の話だ。それも現実的な…進路の話。いつかは話さないといけないこと。
「昨日…考えたんだ。最近、白花と話せてないから嫌だなぁって。もしかして、今度こそって思ったんだけど…それはさすがにない。夏に確かめ合ったばかり。私も自信があるよ。今はまだ嫌われていない。じゃあなんでこんなにも距離があるんだろうって。私たちすれ違っている気がするんだ。私の考え、白花の考え…私たちは仲良しだけど、考えまで一緒じゃない。それを一緒にすることを仲良しとは言わない。そんな気がする。じゃあどうすればいいかって考えた時に…思い出したんだよね。あの日の公園で白花が言ったこと。」
あの日の公園。それは黒蜜さんが過去の出来事を打ち明けてくれた日のことでその時の場所が公園だった。あの公園は私にとっても黒蜜さんにとっても、人生が…価値観が変わったと言ってもいいくらいのターニングポイント。
その時に私が言った言葉。私もついポロっと出た言葉。
今でも覚えてる。
「「いつか、二人で暮らす」」
私と黒蜜さんの声が揃う。
「そう。それ。白花もさすがに覚えてたか。あれは衝撃だったからね。めちゃくちゃいいアイデアだと思ってさ。そのアイデアを思い出した時に、妙にしっくりきて落ち着いたというか、嫌な気持ちがスッと軽くなったんだよね。だから…その…。」
と、途端に歯切れが悪くなる黒蜜さん。いや、もうここまでくれば流れはだいたい分かるんだけど…そういうのは最後まで言ってほしいし、私も黒蜜さんに言って欲しいことがある。
「いや、ここまで言えば…分かる…」
そういう黒蜜さんを私はまじまじと見つめる。
顔で最後まで言えと諭す。照れて顔は赤いかもしれないが、目を細めてしかめっ面を保つ。
うっとたじろぐ黒蜜さんだったが、意を決したのかコホンと息を整えた。
「白花。夏に保留って言ったのは取り消す。…。…わ、私も白花のことが好き…だから―――」
まだセリフの最中だが思わず抱き着く。ぎゅっと黒蜜さんの胸に飛び込んでその豊満な胸の弾力に驚きつつも私は幸福感を黒蜜さんに伝えたかった。黒蜜さんは驚きながら私を受け止めセリフを続ける。
「———だから…付き合おう。そんでゆくゆくはさ…その…同棲したい。」
私は抱きしめたままなので上向きで黒蜜さんの顔を見る。
「うん。」
私はそう答えた。
×××
楽しみにしていた文化祭。
黒蜜さんと一緒に回って楽しんだ。
のだが、あまり記憶にない。
あまりの出来事にいっぱいいっぱいだった。
今でも思い出すたびに枕に顔を埋めて叫びたくなる。
嬉しさのあまり足をバタバタしちゃうかも。
私と黒蜜さんは恋人になったのだ。
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