第16話 白花の望み

文化祭、当日。

一日目は生徒のみ開催。主に一年の出し物をセッティングする日とも言える。また出し物の練習日…要はプレオープンのようなものだ。

とはいえ、既に先輩方は祭り当日のようなはしゃぎぶりで、校舎がサウンドボックスのように音で満たされていた。


私は、自身に変化を望んだ。

黒蜜さんとの関係が進んだことで自身の考えを改めることにした。

面倒なことから目を背けない。それは極端に変化させるというわけではなく、私の今できる範囲で人と関わり、自身の変化に繋げようと…そういう話だ。

だから、今まで通り面倒なことは極力したくはないし、人間関係も構築しすぎるのもどうかと今でも思う。やはり、急に思いは変えられない。

ただ、自分のためだと思えば…黒蜜さんと一緒にいるためだと思えば、私の足は動いた。


全ては私と黒蜜さんのため。

実は私には自身の感情に対する他者の評価が気になっていた。というのも、クールだの感情がないだの、イマイチ感情を読めないだの言われてきた。それに対してこのままでいいのかと思うようになった。

なぜならば、私が嬉しい時、楽しい時、黒蜜さんにその感情が伝わって欲しいからだ。

そうすれば、黒蜜さんの不安も少しは飛ぶんじゃないだろうか。

黒蜜さんが不安になった一因は私にもある。

そういう些細なことから変わっていけるのであれば…私は変わりたい。


黒蜜さんが日に日に引きこもりから遠のいていくのをまじかで見てきた私もなにか変化した方がした方がいいんじゃないか。そう思い始めた時に、そういった変わりたいと思える理由を見つけて、私は文化祭実行委員に立候補したのだった。


ただ、残念なのは黒蜜さんとの時間が最近減ったことだった。



×××


盛り上がる校舎を見回る。

実は今日は黒蜜さんが休みだった。

何かあったのか連絡したところ『明日は行くから』とだけ帰ってきた。

何かあったんだろう。

最近の黒蜜さんを見れば、一日の休みで杞憂になったりしない。

それにしてもいろいろあるもんだ。


一年の展示物には立体の造形物や絵画をはじめ、ポップでかわいい感じの…弾ける若さで作りましたって感じの展示が多い。(なんだこの年上みたいな感想は。)


他にも部活動、委員会の展示もあって校舎が美術館と化していた。

体育館にも一部展示があるが体育館では主に、発表形式の部活動や学年の出し物が披露されていた。軽音楽部や吹奏楽部のコンサート、ダンスや演劇などの出し物…いっぱいある。


委員会の仕事は私は終了した。

あとは黒蜜さんと回るくらいだろうか。

明日はどう回ろうか、考えながら時折、クラスメイトに声をかけられながら校舎を周った。まるでデートの下見みたいだ。


すでに黒蜜さんとデートする気でいるけど…。

まぁ明日来るみたいだし、実際デートするでしょ。

黒蜜さん…。

最近会えてないな。会話もあまり出来てないな。

なんだろう元気がなかった気がする。

明日一緒に回って元気になってくれればいいなぁ。


キスしたんだよなぁ私たち。


…なんか思い出すと恥ずかしいな。

黒蜜さんの顔を思い出すとその黒蜜さんの口が動く。


『…保留でいいかな。』


…。残念なような、真剣に考えてくれてるから嬉しいような…。

でも、もうお互いに好き合っているの分かっているのに保留なのかっていう気持ちと…。


ああ、明日になれ。

黒蜜さんに会えばなにか変わるような気がする。


私はそのまま文化祭の校舎に用意されたベンチに座って、行き交う生徒を眺めた。


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