第12話 黒蜜、暴れる
白花の様子がおかしい。
なんていうかよそよそしいというか、そっけないというか。
いや、随分白花の性格は変化していた。それは私が見なくても分かるだろう。特に私と公園で話してからは顕著だ。
だが、それが戻ったというか、どこか遠慮というか関係が遠のいたというか…。
私がなにかしてしまったのだろうか。
無理にスケジュールを立てたのがまずかったのだろうか。
極めつけは今日、予定があるからといつもの二人で茶店のお菓子を食うというルーティーンをぶっちしよった。今日は茶店の後に、水着を買う予定だったのだが…。
なんだぁ?
嫌われたか?
×××
メッセージにはこうある。
『今日は体調が優れないからお茶会に行けない』
「は」ではなく「も」だ。
昨日もそうだった。そして今日。
スケジュールを確認し合ったときに今日は空白だった。
急な用事がない限り家にいる。
のであれば、白花に会いに行くだけだ。
一回行っといてよかった。
場所を教えてもらえてなければ、こういうアプローチも出来ないところだった。
という訳で今現在、八月の五日白花家の目の前にいる。
私が腐ってた時に無断で料理を作りに来た時みたく、今度は私がそのお返しをしてやる番だ。
何が何だか知らないが、白花に聞かないと事は進まない気がする。
だから私はインターホンを…。
押すのに一時間かかった。
×××
インターホンに反応して出てきたのは白花の母親だった。
クラスメイトですと言うとドアから白花母は出てきた。スレンダーな人だ。
かっこいい系というのだろうか。さすがは白花の母親だ。
似ている。いや、この場合白花が母親似と言った方が適切か。
だが、正確は正反対で、かなり陽気な人だ。
どうやら初めて白花の友達がきたらしくうきうきして小躍りをしていた。
回ったりしている。
微笑ましい。笑う気分ではなかったのに思わず顔が綻ぶ。
「本当にあの子はなんていうかとっつきにくいでしょう? だから友達が少ないんじゃないかって心配してたのよ。」
「そう…なんですか。」
「いや、うれしいわ。こうしてうちに来るような子と仲良くなれるなんて。」
「…。」
にっこり笑顔だが、内心冷や汗が出ている。
もしかしたら私嫌われたかもしれないです。それを確認しに来ました…。なんて言えるはずもなく。
この階段上がって右の部屋が百合の部屋ね。あとでお菓子持っていくわね。」と言った後、階段に向かって「百合ぃーお友達が来たわよ」と大きめの声で私が来たことを教えた。返事はない。
「あの子最近、変なのよ。まぁ気にしないで。上がってて。」
「あ、は、はい。」
私は無意識に返事をした後、その階段を上がる。一度来たので母親の説明がなくても部屋の在処は分かる。階段を上がって右を向くと…部屋の前に白花がいた。
白花は口をへの字に曲げて尖らせていた。…うーん、拗ねているのか?
「あ、」と私が口を開くと白花が先に答える。
少し顔を赤くしていた。
「強引…。」
そのまま放心状態でいるとしたから白花母がやってくる。
音に反応した白花は素早い動きで母親の元まで行き、「お菓子ありがとう」と言って母親が持ってきたお菓子と飲み物が載せられたトレーを奪取するとそのまま部屋に戻る。その際、顔でこっちに来いとジェスチャーをする白花に戸惑いながら対応する。ドアを閉めるときに白花が「ちょっと大事な話だから、入って来ないでね!」と母親に言った。
大事な話とは?
×××
そして部屋に入った私と白花。
白花は手元のトレーを小さな机に置くとその場に座り込む。
私は質問から入った。
「大事な話って? 」
「…あ、いや、なんていうか。」
言葉を濁す白花に、なんというかイラつく。
なにせ私は約束を破られた上に嘘までつかれている。それなのに何もいうことはないらしい。
…。そっか。なんというか怒りと同時に悲しくなる。
「ふーん。そっか。何もないのか。私とのお茶会ってやっぱり面倒だった?」
「え?」
「そうだよね。互いに気になるっていってもさすがに重すぎだよね。私。」
なんだろう。止まらない。
こういうことを言いに来たのではないのに。
「ち、ちがっ。」
「じゃあなんで!」
思わず叫ぶ。
大きい声は部屋に響く。その後沈黙が訪れる。
私はその沈黙に耐え切れずに口を動かす。
「じゃあ何で来なかったの。元気だし、予定もなさそうなのに…なんでこなかったの…。本当のこと言って。」
「そ、それは…」
――――沈黙。
プチンと何かが切れる。
不安の糸か、緊張の糸か、怒りの糸か…それとも全てか。
定かではない。
「何とか言ってよ! 私、白花だけには嫌われたくないんだかんね!」
「嫌ってない!」
「じゃあなんで!」
「今は言えない!」
「なんで言えないのよ!」
「言いたくないから!」
揉み合いになる。もちろん殴ったりはしないが襟をつかんで威圧する。それに応じて白花も対抗する。喧嘩が始まった。
喧嘩なんてする気はなかった。
「最近の態度はなんなのよ。明らかに私を避けてる! 嫌ってるんじゃなかったらなんだてっていうのよ。」
「嫌ってないって言ってるじゃんか! 私を信用してよ。」
「したいよ! でもそんな態度じゃしたくても!」
「わかってよ。」
平行線だ。
そのまま静かに襟をつかんで押したり引いたり…。
そのままずるずると私が押して、そのままベッドへ白花を押し倒す。
逃げ場はなし。
「ちゃんと話して。記憶が正しければ、夏祭り以降…態度が変わった。嫌な事したのならそれを改善したいんだよ…。わかってよ。」
「……。」
現状に耐えらず目から大きな粒が流れる。それを押さえようと目を瞑るとぼたぼたと白花の顔に垂れていく。
白花はそのまま私の後頭部に手をまわし、そのまま私の頭を抱き寄せた。
互いに疲れたのか、そのまま何も言わず、何もせず。
客観的に見たら私がベッドに押し倒して、白花が受け入れているみたいになってる。
こういうことはもっといいムードでしたかったな。
「わかった。話すよ。」
白花が静かに答える。私は目で白花の顔を見る。
真剣な顔だった。白花続けて言った。
「私、黒蜜さんのこと…好きみたい。」
いつもかっこいいと思っていた白花の顔が徐々に赤くなっていく。
思わず可愛いと思った。
…いや、まて。それより今なんと?
す…好き? 誰が私を…?
―――!
「え?」
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