第11話 白花、知る
次の日。
私の部屋に黒蜜さんがいる。
なんだこれは。ギャルだ。ギャルがうちにいる。
私の部屋にギャル…。
なんとも異質な空間だ。
現在七月の三十日。
部活動をしているわけでもない私と黒蜜さんは八月の予定を決めようと昼から私の部屋で計画を立てるのだった。
「明日、近くでお祭りがあるらしいし、行ってみない?」と黒蜜さん。
「…。うん。」と私が頷く。
すると黒蜜さんは手帳を持ち出し、八月一日に『祭り』と赤文字で記入した。
そんな感じで、基本黒蜜さんの提案に私が肯定するだけで、八月の予定は埋まりかけていた。
「白花はなにかしたいことないの?」と聞かれて私は困った。
なぜなら特になかったからだ。
だがそれは前提がある。それを言ってもいいのか迷ったが、以前より信頼関係が生まれた私と黒蜜さんなら大丈夫だという結論に至った。
「黒蜜さんと…一緒にいられればそれでいいよ。」
「わーうれしいなぁ」なんて笑いながら答えてくれた黒蜜さんの笑顔をみて私も思わず顔がにやける。
感情を表に出さないとか言われていたのが嘘みたいだ。
その日はそのまま計画も埋まり解散となった。
私はバス停まで黒蜜さんを送った。
バス停でバスが来るまでの間、ここ最近の黒蜜さんのエピソードを聞いて時間を過ごした。バスが来てそのバスに乗った後、窓際から私に手を振る黒蜜さんに手を振り返して、その日は終わった。
仲良くなれたなぁと思う。
半面、まだ踏み込めてない部分もあるのも確かだった。
私が好意を抱いてるかもという疑念が確信になった時、私の反応がマジになって関係が拗れるかもしれない。
そういう恐怖があった。
×××
次の日。私は今日の夕方が待ち合わせ時間だというのに、朝から緊張していた。
何に緊張しているのか分からないが、初めてのことばかりでじっとしていられないのだった。
そうだ。夏祭りだし…浴衣を着た方がいいんだろうか。
いや、…普段の装いでいいのかもしれない。
というか、いまさら浴衣の準備なんてできないし…。
さ、探すだけ探してみようかな。
探していたら時間は過ぎ、あっという間に時間になった。
走りながら指定したポイントのポスト前まで行く。
結局浴衣はなく、格好がつくような装いになった。
可愛げなんて微塵もない。地味な服装だが…ダサいよりはマシなのかもしれない。
約束場所には私服の黒蜜さんがいた。
いや、昨日も私服だったし、なんならこの一週間ずっとあっていたからいまさら服装についてあれこれ感想はないが…やっぱりかわいい。
黒蜜さんも私服だったことに安堵する。
同時に、なんとなく気合の入ったファッションで特に肌の露出が高めで刺激が強い服装だった。夏のせいだ。
短パンジーンズにへそ出し。みたいないかにもなギャルの雰囲気に充てられる。
ああ、ギャルだ。
「やっほー。」
「うん。待った?」
「いやぁ、全然オッケー。」
そう言って人混みの中へ私たちは進んでいった。
×××
どうやら有名な祭りらしい。
人が多く、あちこちで混みあっている。
「だいじょーぶ?」と黒蜜さん。
「なんとか。」と答えながら私は黒蜜さんの背中を一生懸命追う。
あまりの人の多さにうんざりしていると黒蜜さんの背中を失いそうになる。
待ってと言いたいが言っても届かないくらいに大勢の人の声が雑音となって届かない気がする。
ふと手を伸ばすと握り返す感触があった。
黒蜜さんの手だ。
そのまま手をつないで一通りの少ないところまで出た。まだ手はつないだまま。
「すごいね。ここの祭り。」
「う、うん。」ドキドキする。
「花火もあるみたいだし見えやすいところいこうか。」
コクリと頷く。
すると後ろから衝撃がくる。どうやら人がぶつかったらしい。結構勢いがあった。『すみません』なんていう声がしたようなきがしたがそのまま通り過ぎて行った。仕方ないと言えば仕方ない。あまりの人の多さだ。だがすみませんですぐ通り抜くのは失礼じゃないか?
なんて言っている場合じゃない。
そのまま私は前へ倒れる―――が。
手はつないだままだったので、そのまま黒蜜さんが私を引き寄せた。
そのまま豊満な黒蜜さんの胸へダイブした。
とっさのことで対応しようとした際に繋いでない方の手を前に出したことで胸に顔を埋めながら片手で胸を揉むという状態になった。
少し汗の匂いがする。
だが、いい匂いもした。
何より胸の感触が柔らかくて…。
じゃ、じゃなくて…。
何言ってんだろう私。
「ご、ごめん。」と私が謝る。
「大丈夫。人多いねぇ。」
照れる。
私は顔を赤くしながら黒蜜さんに引かれてそのまま祭りから遠ざかって行った。
「ここからなら花火見えるでしょう。」
着いたのは遠い山の神社。
人がいないわけではないが結構少ない。
休憩所にて花火を待つ。
「いいでしょ。結構穴場。」
「結構離れてるもんね。早めに祭りを出たのはこういうことだったんだぁ。」
「調査は基本だよ。」ワトソン君と自慢げに言う黒蜜さん。
花火が上がった。
夜空を彩る花の数々はどれも美しい。
形も色もどれもが美しい。
上がる花火を見たあと黒蜜さんは私の方を向いて
「きれいだね。」と言った。
「…。」私はコクリと頷いた。
ドキリと胸が弾ける。
…目の前の黒蜜さんの笑顔に胸が弾けた。幸せだなぁと思ったのだ。だが同時に私は思ってしまった。
ギャルになる前の…
三つ編み時代の黒密さんと見たかったと…。
そして私は自覚した。
私は黒蜜さんが好きだ。
だが、それは以前の…三つ編みの黒蜜さんが好きなのだと。
だから楽しいと思いながら釈然としなかったり、何か物足りなさを感じたりした…のかもしれない。
そういうことだ。
そう…なるんだ。
でも、これってどうなんだろう。
黒蜜さんに伝えるべきなのだろうか。
傷つけてしまう気がする。
…。
自分でも、もやもやする。
好きな人のはずなのに…全部好きになれないなんて。
花火が上がる。
私はそっと呟いた。
「きれいだね。」
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