第44話 勇者の憎悪

 エルドラス王国にある、とあるダンジョン。

 そこに勇者ハーゲンのパーティーがいた。


 ハーゲンは、パーティーの先頭に立ち、魔物たちを切り裂いていた。

 金髪碧眼の勇者の剣が閃く度に、魔物たちが斬殺されていく。


 Bランクの魔物たちが、草を刈るように薙ぎ倒されていた。

 ハーゲンの碧眼には憎悪の炎が揺らめいていた。


(カインめ!)


 カインへの憎悪とともに剣を振るい、魔物を斬り殺す。

 憎悪が彼の胸を灼いていく。


 いくら魔物を殺しても、考えるのはカインの事だけだ。


(この俺が、勇者ハーゲンが、あんなゴミクズに負けるなどあってはならない!)


 カインに敗北した事を思い出す度に、魂が焼けるような憎悪が、湧きあがる。

 あんな平民ごときに無様に負けた。


 その事が、彼には許せなかった。

 選ばれし勇者である事が、彼の自尊心を肥大化させていた。


 そして、その自尊心を傷つける存在を、絶対に許す事ができなくなっていた。

 今、彼は憎悪に囚われ、その憎悪の力で強さを増し、加速度的に強くなっていた。


 ハーゲンの後方にいる仲間たちは、彼の闘い振りを見て、驚嘆していた。


「さすがはハーゲンだ。最近、日増しに強くなっている。おそろしい程だ」


 戦士グスタフが、頼もしそうに笑む。


「まるで鬼神ですね」


 神官アリアも同意し、魔導師ベアトリスも頷く。

 グスタフ、アリア、ベアトリスは、彼の内面に気づけなかった。


 正義でも、魔王を倒す使命感でもなく、醜悪な憎悪で、勇者が身を焦がしている事を。


(カインめ! 必ず殺してやる!)


 勇者の心に、禍々しい黒い炎が燃え上がっていく。 




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