第41話 新しい仲間 

 ダンジョンから出ると、夕暮れ時だった。


 ずいぶん、長くダンジョンに潜っていたな。

 テントを張り、野営をする事にした。


ルイズが、敷いてくれた大きな布の上に、俺とミネルヴァは寝転がっていた。


 俺とミネルヴァは休憩させて貰っている。

 ルイズたちが、せっせと野営の準備をしてくれていた。


「痛っ」


 全身に強い筋肉痛が走る。

 筋繊維が痛んでいるのだろう。


 『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』の反動は、相変わらず、半端ない。


 まあ、俺が未熟なせいで、反動が強いだけだけど……。


「カインお兄ちゃん、苦しいの?」


ミネルヴァが、ピョコリと半身を起こして、俺を見る。


「少しだけな。まあ、明日には回復してるよ。それよりも、ミネルヴァは大丈夫か?」

「大丈夫なの。私は元々、凄く身体が強いから。あとは、ご飯を沢山食べればすぐに治るの」


 ミネルヴァが、元気な笑顔を見せた。


「さすが、天竜族、タフだな」


 俺は、心底感心した。人間族とは桁違いの生命力だ。


「エヘンなの。私たち、天竜族は全種族の中で最も頑強な肉体と、耐久力を持っているの。怪我をしても、超速再生で、すぐに回復しちゃうの」


 ミネルヴァが、薄い胸を張って、誇らしげにする。


「そうか。元気なのは良い事だ」


 俺は、微笑する。


「ねえ、お兄ちゃん、質問しても良い?」


 ミネルヴァが、女の子座りする。


 丈の短い布の服を着ているので、股間を隠す程度で、素足も、お尻も、ほとんどまる見えになっている。


「なんでもどうぞ」

「なんで、お兄ちゃんたちは、ダンジョンに来たの?」

「冒険者だからな」

「冒険者って?」

「う~ん、なんて説明したら良いか……」


 俺は、ミネルヴァに冒険者について、子供にも分かるように話した。


 まあ、ミネルヴァは見た目通りの年齢じゃないから、本当は子供じゃないが。


 ミネルヴァは、俺の話を興味深そうに聞くと、紫瞳を輝かせた。


「冒険者って、凄いね。私も冒険者をしてみたいの!」

「冒険者か、ミネルヴァなら、良い冒険者になれるだろうな」


 俺は本心から言った。

 天竜族は、猫神族に匹敵する身体能力と高い魔力を有する。

 冒険者になったら大活躍できるだろう。

現に、ミネルヴァから溢れ出ている魔力量は、尋常じゃない。

 この魔力量だけを見ても、戦闘能力が高い事が分かる。


「ねえ、お兄ちゃん。私を仲間にして欲しいの!」


 俺は、いきなりの提案に驚いた。


「俺の仲間に?」

「うん♪ お兄ちゃんたちなら信用できるし、それに……」

「それに?」

「私は、世間知らずな上に、お馬鹿さんだから、一人で旅するのは心配なの。冒険者になりたいけど、何をすれば良いのかサッパリ分からないし……」


 ミネルヴァが、少々恥ずかしそうに頬を染めた。


「……家族や故郷とかはないのか?」

「家族? 故郷? それは何なの?」


 ミネルヴァによると、天竜族は家族とか、故郷とかいう概念がないらしい。


 卵として産み落とされて、勝手に孵化して成人して、勝手に生きていく存在だそうだ。


 大人になった天竜は、どこかの秘境に住むか、希に人間に守護神として祭られる祭神さいじんになるという。


 だが、すでに絶滅寸前で、同族がいるのかどうかも分からない。

 下手をすると、ミネルヴァが最後の天竜かも知れないという。


 そうか。

 とすると、この子は天涯孤独なのか……。


 両親と故郷を失った俺の境遇と、少し似ているかもしれない。

 俺には叔父さんがいたが、ミネルヴァには誰もいない……。


 それを思うと、たまらない気分になる。


 孤独という冷たい風が、ミネルヴァの小さな胸に、吹いているような気がした。


 この小さな天竜族の少女を仲間にしたい。

 一人にしておけない、と俺は思った。


 それに、ミネルヴァは、冒険者になりたいそうだが、200年も監禁されていた。


 いきなり、一人で冒険者として、活動するのは難しいだろう。


「ルイズ、フローラ、エルフリーデ、少し来てくれるか?」


 俺が、呼びかけるとルイズたちが、すぐに来てくれた。


「先生、どうかなさいましたか?」


 銀髪金瞳のハイエルフが、尋ねる。


「うん。実は、ミネルヴァが、俺たちの仲間になりたいそうなんだ。だから、みんなの意見を聞きたい」

「私は、先生の指示なら、どんな事でも従います。ですが、私の意見を言わせて頂くなら、大歓迎です。ここで会ったのも何かの縁ですし」

「私も大歓迎だよ♪ それに、こんな小さい子を一人でいさせたくないいし」

「私も歓迎する。天竜族は竜族の最上位種だから、強い筈。仲間になれば頼もしい」


 俺は微笑した。

 相変わらず、ルイズたちは健やかだな。

  俺は、ミネルヴァに視線を投じた。


「ミネルヴァ、これからよろしく頼む」

「え~と、……それは仲間になっても良いの?」


ミネルヴァが、言う。


「その通りですよ」


 ルイズが、微笑してミネルヴァの頭を撫でる。


「よろしくね♪」

「お姉さんとして、色々教えてあげる」


 エルフリーデが、薄い胸をそらす。


「ありがとうなの!」


 ミネルヴァが、笑顔で俺に抱きついてきた。

 そして、俺の胸に顔をうずめて、俺を抱きしめる。

凄まじい力で、抱きつかれて、俺はむせた。


「ぐふぉ!、ミネルヴァ! て、手加減してくれ……」


 肋骨がミシミシと悲鳴をあげる。このままだと内臓が破裂する!


「ご、ごめんなさいなの!」


 ミネルヴァが、慌てて俺を離す。

 なんていう怪力だ! 

 これが、天竜族の力か!

 

 猫神族と同等のパワーを持つと言われるだけはある。

こうして、ミネルヴァは俺たちの仲間になった。




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