第38話 解放

 本能で危険を察知したのだろう。

 だが、遅い。

 逃がしはしない。


 俺は、『風の加護』を使い、斬撃を飛ばした。

 真空の刃が、多頭蛇ヒュドラの首を切断する。


 容赦なく、斬撃を放ち続け、多頭蛇ヒュドラの首を、7つ切断する。

 多頭蛇ヒュドラが、悲鳴をあげて、咆吼した。

 俺は、跳躍した。


多頭蛇ヒュドラの胴体に乗り、ロングソードを逆手にして、下に思い切り突き刺す。


 多頭蛇ヒュドラが、暴れて、悲鳴をあげ、俺を振り落とそうと喘ぐ。

 だが、動きが遅い。

 ダメージが、大きすぎて、俺を振り落とせない。


「『天雷アルゲース』」


 俺は、雷属性の超位魔法を唱えた。

 魔法には階梯があり、超位魔法、上級魔法、中級魔法、初級魔法の順番に強い。


 上級魔法を遙かに上回る魔法。

 それが、超位魔法だ。

 精霊族の能力で、大気中の魔力を集めた上で放つ超位魔法が、炸裂する。


 魔導師ベアトリスから、模倣コピーした魔法だが、彼女でさえも、完全には使いこなせなかった。


 緻密な魔力操作が必要な上に、消費する魔力量が膨大すぎるからだ。

 だが、今の俺ならば、完全とはいえないまでも、使用できる。

 エルフリーデの能力のお陰だ。


 青く光る電撃が、俺のロングソードを通して、多頭蛇ヒュドラの肉体の内部に浸透していく。


 多頭蛇ヒュドラは怪物だが、生命体だ。

 人間や動物と同じで、内部は壊れやすく脆い。

 多頭蛇ヒュドラが、絶望的な悲鳴をあげた。

 電撃が爆ぜる音と、青い火花が空間に咲き乱れる。


 やがて、「『天雷アルゲース』」が、消滅した。

 俺の魔力が尽きたのだ。


 同時に、俺の全身に鋭い痛みが走る。

 『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』の反動だ。


 この技は、使用した後の反動が大きく、使用後は動く力もない程、疲弊してしまう。


 だが、『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』を使った価値はあった。

 多頭蛇ヒュドラの動きが停止した。

 首と尻尾が、地面に落ちる。


「勝った……」


 俺は、安堵の吐息をついた。

 汗が、全身から滴り落ちる。


「先生!」

「カイン、凄いにゃー!」

「師匠、さすが」


 希少種の美少女三人が、俺の後方で讃美の声をあげる。

 俺は振り向いて、微笑しようとした。

 次の刹那、多頭蛇ヒュドラが、動いた。

 胴体が激しく動き、俺は多頭蛇ヒュドラから、振り落とされた。


「ゴアアアアっ!」


 多頭蛇ヒュドラの咆吼が、部屋を振るわした。

 まだ生きていたのか! 


 しまった!

 なんていう生命力だ。

 俺は地面に落ちた。


 かろうじて受け身を取った。


 仰向けの状態から、なんとか上半身を起こしたが、立つ力がない。


 『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』の反動で、魔力も体力も使い切り、動けない。


「先生!」

「カイン!」

「師匠」


 ルイズ、フローラ、エルフリーデが、俺と多頭蛇ヒュドラの間に、わけ入る。 

 そして、三人の少女たちは、俺を庇うようにして、武器を構える。


 逃げてくれ!

 俺は叫ぼうとして失敗した。

 叫ぶ力すらない。


 多頭蛇ヒュドラの首が、動いた。

 二本の首が、大口を開けて、俺たちめがけて襲いかかる。


 お終いか……。

 『死』が、俺の脳裏によぎる。


ふいに、多頭蛇ヒュドラの頭が停止した。

 大口を開けたまま、二本の首が、彫像のように固定して、微動だにしなくなる。


「「?」」


俺たち全員が、頭の上に疑問符を浮かべる。

 やがて、多頭蛇ヒュドラの首が、大口を開けたまま、床に倒れた。

 そのまま数秒が経過した。

 多頭蛇ヒュドラは動く気配がない。


「うにゃ~?」


 フローラが、不思議そうな顔で、多頭蛇ヒュドラに近づいた。


 そして、戦斧でチョンチョンと多頭蛇ヒュドラを小突く。

猫神族の美少女は、じっと多頭蛇ヒュドラを見た。

やがて、振り返って、俺たちを見る。


「にゃー、カイン。もう大丈夫。多頭蛇ヒュドラは死んだよ」 


 勝ったのか……。

 ビックリした。


「か、勝ったんですね」


 ルイズの、端麗な美貌に冷たい汗がつたう。


「……死ぬかと思った」


 エルフリーデが、ぺたりと床に座り込む。

 ああ、俺もそう思った。


「カイン、大丈夫?」


 フローラが、仰向けに寝ている俺を抱き起こす。


「ああ、なんとかな……」

「師匠、お疲れ様。カッコよかった」


 エルフリーデが、親指を立てる。

 俺が、苦笑で答え、ミネルヴァに問う。


「ルイズ、ミネルヴァは?」


 ルイズが、黄金の瞳をミネルヴァが拘束されていた玉座にむける。

 俺も、首だけ振り返り、肩越しにミネルヴァを見る。


 拘束具は解除されていた。


 ミネルヴァの手足についていた手枷と足枷が、真っ二つに割れて、床に落ちている。


 やはり、あの多頭蛇ヒュドラが、拘束具の鍵だった。


 出入り口を塞いでいた岩壁も、崩れて出入り口が、見えている。


ジャラリっという音がした。


 ミネルヴァが、立ち上がり、鎖が擦れた音だ。

 10歳ほどの外見の天竜族の少女が、フラフラと歩き、わずか数歩で、


「あっ」


 という喘ぎ声を出して、床にへたり込んだ。


200年間も拘束されていたのだ。

 体力を失っているのだろう。

 ルイズが、ミネルヴァに歩みより、


「大丈夫ですか?」


 と声をかける。

 ミネルヴァは、コクコクと頷いた。

紫色の髪の天竜族の少女は、俺に紫瞳をむけ、次にルイズを見上げ、


「お願いなの……、連れて行って」


 と、懇願した。

 ルイズは頷き、ミネルヴァを抱き上げて、俺の側まで歩いてきた。


 ルイズが、ミネルヴァをお姫様抱っこしたまま、床に膝をついた。


 ミネルヴァと俺の目線が、同じくらいの高さになる。

 天竜族の少女は、俺とルイズたちを見た。


 そして、紫瞳に涙を溢れさせた。

 数秒、嗚咽した後、


「カインお兄ちゃん……、お姉ちゃんたち……、ありがとうなの」


 ミネルヴァが、ポロポロと涙を流した。



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