第37話 虚神の牢獄

 命懸けの時に、何を言っているんだ!

 不思議ちゃんなのは知っているが、時と場合を考えろ!


俺は、エルフリーデをおろして、後方に待機するように命じた。

そして、ロングソードを構えて、多頭蛇ヒュドラめがけて走る。


「シャアっ!」


 呼気とともに、ロングソードを、横薙ぎする。


 『風の加護』が、発動し、風の刃が多頭蛇ヒュドラを襲う。


 ザンっ!


 という音とともに、多頭蛇ヒュドラの首が、二本同時に切断された。


 血飛沫が、多頭蛇ヒュドラの首から噴き上がり、多頭蛇ヒュドラが、苦悶でのたうつ。


「チャンスだにゃー!」


 フローラが、戦斧を上段に構えて、跳躍する。


「危ない!」


 俺が、叫んだ。

 多頭蛇ヒュドラの眼が、冷徹にフローラを見据えていたからだ。

 奴は、まだ余力がある。


 そして、冷静に戦況を把握し、跳躍したフローラを観ている。

 多頭蛇ヒュドラの巨大な尻尾が、唸りをあげて横薙ぎにふられた。


「フローラ!」


 フローラに直撃する寸前、ルイズが、跳躍し、『風の加護』を放つ。

 突風が、多頭蛇ヒュドラの尻尾に叩き付けられ、勢いを殺す。


 そして、ルイズはフローラを抱きかかえるようにして、後方に飛んだ。 ドンっ!

 という鈍い音が、炸裂した。

 フローラとルイズに、多頭蛇ヒュドラの尻尾が、当たった音だ。


「ルイズ、フローラ!」 


 ルイズとフローラが、吹き飛んで、20メートル以上、宙空を飛んで、床にたたきつけられる。


 床に叩き付けられる刹那、ルイズが、『風の加護』を使って、風をクッション代わりにするのが、見えた。


「大丈夫か?」


 俺は、多頭蛇ヒュドラの尻尾に、袈裟斬りを放ち、多頭蛇ヒュドラの尻尾を切断した。


「生きてます! 左足の骨折だけです!」

「うにゃ~、肋骨と左腕を骨折しただけだにゃ! 大丈夫」


 ルイズとフローラが、怪我を報告する。


 自分の怪我を告げる事で、どの程度の治療が必要で、どのくらいの戦闘能力があるかを仲間に知らせるのだ。   


 良かった。


 ルイズの機転のお陰で、即死は免れたようだ。


 『風の加護』は便利だ。


 攻撃にも防御にも使える。汎用性が高い。


 多頭蛇ヒュドラの尻尾が、直撃する直前に、突風で、尻尾の速度を落として、威力を減殺した。


 そして、直撃する刹那、後方に移動すると同時に、風をクッションのように防御壁にしたのだ。


「『電撃サンダー』」


 エルフリーデの電撃魔法が、多頭蛇ヒュドラの巨躯に命中する。 


 多頭蛇ヒュドラの肉体が、電撃で焼け焦げ、多頭蛇ヒュドラの動きが鈍る。


多頭蛇ヒュドラが、弱ってきている)


 俺は確信した。


 多頭蛇ヒュドラの動きが、あきらかに鈍っている。


 そして、生命の危機を感じて怯えたのか、多頭蛇ヒュドラが、後方に下がりはじめた。


感知魔法で、多頭蛇ヒュドラを観る。

 多頭蛇ヒュドラの魔力が、先程と比べて、3割も減っている。


「エルフリーデ! ルイズとフローラの治療をしろ。そして、ミネルヴァを守れ!」


 俺が命じると、青髪の精霊族の美少女は、


「命令が多くて大変だけど、やる」


 と、きっぱりと答えた。

 頼もしいな。


 俺は、数瞬だけ、呼吸を整える。

 そして、多頭蛇ヒュドラめがけて、走った。


 多頭蛇ヒュドラが、炎を吹いてきた。

 俺は、それを避けながら突撃する。


 精神を集中し、魔力を練り上げる。

 多頭蛇ヒュドラを見すえながら、


「『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』」


 と、唱えた。       


青い魔法光が、光り輝き、空間に広がっていく。


 そして、俺と多頭蛇ヒュドラを半円形の魔法光が、包み込む。


 『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』の領域内に、俺と多頭蛇ヒュドラ、双方を閉じ込める。


 『虚神ゲヘナ牢獄プリズン』は、結界魔法の一種だ。

 俺の家、ベルマー家に伝わる奥義で、代々、ベルマー家の人間が、相承してきた。

 これは、誰にも見せたことがない。


 勇者ハーゲンたちにも、ルイズたちにも見せた事はない。


ベルマー家の先祖から、代々受け継がれ、祖父、叔父、そして、俺へと伝承された秘術だ。

 一定時間だけ、自分の全能力を底上げし、同時に敵の全能力を低下させる事ができる。


 俺の五感、身体能力、魔力、集中力が飛躍的に向上していく。


 同時に、多頭蛇ヒュドラの全能力が、低下していく。

 多頭蛇ヒュドラが、異常を感じて、苦悶の声をあげた。






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