第36話 お姫様抱っこ


 ほぼ同時に、多頭蛇ヒュドラが、俺たちに向けて、殺意の咆吼を放った。

 多頭蛇ヒュドラの九つの首が、カマをもたげて、口から火炎を不出した。


 9つの猛火が、俺たち目掛けて吹き付ける。

 俺は咄嗟に、ミネルヴァをかばって、魔法障壁を無詠唱で放った。


 青い魔法光を放つ魔法障壁が、バリヤーとなって俺たちの目の前に張られる。

 多頭蛇ヒュドラの吐き出した猛火は、俺の魔法障壁で跳ね返された。


 ルイズが、無言で弓を構えて、放つ。


 『風の加護』を受けた矢が、多頭蛇ヒュドラめがけて飛ぶ。


 風をまとった矢が、多頭蛇ヒュドラの一つに突き刺さり、上顎から脳天まで突き抜けた。


「にゃっ!」


 フローラが、超速で移動して、多頭蛇ヒュドラの胴体部の横をすり抜けるように走る。


 そして、すり抜けざま、アダマンタイトの戦斧で、多頭蛇ヒュドラの胴体部を切り裂く。


「ギャアアアアっ!」


 多頭蛇ヒュドラが、鮮血を撒き散らしながら、苦悶の叫びを上げる。


 俺も多頭蛇ヒュドラめがけて疾走し、跳躍すると、多頭蛇ヒュドラの一つをロングソードで切り落とした。


 ドサリと、多頭蛇ヒュドラの巨大な頭部が、床に落ちる。

 鮮血が、切断した首から噴き出す。

 残った多頭蛇ヒュドラの頭部の口から、悲鳴がもれる。


「『風刃』」


 エルフリーデが、風属性の魔法を唱えた。

 真空の刃が、多頭蛇ヒュドラにめがけて飛ぶ。


 ザンっ!

 という音とともに、多頭蛇ヒュドラの首の一つが、切断される。


「楽勝」


 エルフリーデが、得意そうに顔を緩める。


「気を緩めるな!」


 俺はエルフリーデをお姫様抱っこして、抱きかかえ、後方に跳躍した。


 多頭蛇ヒュドラの巨大な尻尾が、ブオンっ! と唸りを上げて、横薙ぎに振られた。


 俺と、エルフリーデがいた空間に、多頭蛇ヒュドラの尻尾が、薙ぐ。 

 危なかった。

 多頭蛇ヒュドラの尻尾の攻撃は、巨大な鉄塊を振り回しているのと同じだ。 


 直撃されたら、即死だ。

 俺はエルフリーデをおろすと、


「全員、気を抜くなよ!」  


 と、声を張り上げる。


「はい!」

「気を抜く暇なんてないにゃ! この怪物、ものすごく強い!」


 ルイズとフローラが叫ぶ。

 フローラの言うとおりだ。


 多頭蛇ヒュドラは、今までの魔物とは桁違いに強い。

 かつてない強敵だ。


「ゴアアアアっ!」


 多頭蛇ヒュドラが、威嚇の咆吼をあげた。

 部屋全体が、ビリビリと鳴動する。


 凄まじい殺意とともに、多頭蛇ヒュドラの首が、再生し始めた。

 破壊されて、切断された三つの首が、瞬く間に元通りになる。


「再生した?」

「にゃー! 首が元に戻っちゃったにゃー!!」

「不死身?」


エルフリーデが、多頭蛇ヒュドラの巨体を見上げる。


俺は、感知魔法で、多頭蛇ヒュドラの魔力総量を観察した。


 多頭蛇ヒュドラの魔力総量が、首を再生した途端に、大きく減っているのが分かった。


「不死身じゃない! 多頭蛇ヒュドラの魔力総量が減っている! 再生する度に魔力も体力も失い、いつかは力尽きて死ぬ!」


 俺は声を張り上げて、仲間に知らせた。


「では、肉体を破壊し続ければ、いつかは死にますね」


 ルイズが、弓矢を連射した。


「にゃー! 不死身じゃないと分かって、安心したよ!」


 フローラが、突撃して、多頭蛇ヒュドラの胴体を、戦斧の斬撃で斬りつける。


「『氷槍アイススピア』」


 エルフリーデが、氷属性魔法を唱える。

 五本の氷の槍が、エルフリーデの杖から飛び、多頭蛇ヒュドラに命中する。

 皮膚と肉を貫かれ、多頭蛇ヒュドラが、苦悶の声を発する。


「ガアアアアアアアア!」


 多頭蛇ヒュドラが、憎悪の叫びとともに、9つの首を振った。  疾風のような速度で、9つの首が、真上と横から降り注いでくる。


 巨大な鉄塊が、暴風のように俺たちに襲い掛かる。

 ルイズは、『風の加護』で、身体を風に包み、回避する。


 フローラも、超速で移動し、首を避けた。


 俺は、エルフリーデをお姫様抱っこして、多頭蛇ヒュドラの首の攻撃を避けた。


 エルフリーデは、身体能力が、メンバーの中で一番低い。


 エルフリーデだけでは、とてもの事、回避できないので、俺がお姫様抱っこして、多頭蛇ヒュドラの攻撃をよけ続ける。


「師匠。大胆」

「何がだ!」

「美少女をお姫様抱っこできて役得?」

「アホか!」


 俺が叱りつける。


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