第29話 カインVS勇者ハーゲン 2

「うわああああ!」


 ハーゲンが、電撃魔法の直撃を受けて、後方に吹き飛ばされる。


 だが、金髪碧眼の勇者は、直前で魔法障壁を展開したらしく、ダメージを最小限に抑えている。


 さすが勇者だ。


「く、くそおぉぉお!」


 ハーゲンの鎧やマントから煙が上がっていた。電撃で少し焦げたのだ。

手加減して良かった。

 俺が本気で魔法を撃っていたら、ハーゲンは死んでいただろう。


「ハーゲン。降参しろ。お前に勝ち目はない」


 俺は、冷静に通告した。


「ふ、ふざけるな! 俺に降参しろだと?」


 ハーゲンが怒鳴った。


「そうだ。降参してルイズたちに、……俺の仲間に謝罪しろ」

「上から目線で何様のつもりだ!」


 金髪碧眼の勇者が、顔面を真っ赤にして怒鳴る。


「降参するつもりも、謝るつもりもないのか?」

「当たり前だ!」


 ハーゲンが叫ぶ。

 そうか。

 なら、もう良い。


 だんだん、怒りが冷めてきて、こいつに謝罪をさせても無駄だと感じてきた。


 仮に謝罪させても、口先だけの謝罪しかしないだろう。

 俺は剣を構え、


「手加減なしで行くぞ、死ぬなよ」


 と、忠告した。

ハーゲンは俺を殺すつもりだろうが、俺はハーゲンを殺すつもりはない。


「手加減なしだと? 馬鹿にしやがって!」


 ハーゲンが、血管に青筋をたてて怒鳴り、上段に剣をかまえる。

 俺とハーゲン、互いの剣気が高まる。

 俺とハーゲンの肉体からでる剣気と魔力で、周囲の空気がビリビリと震えた。


 睨み合い、互いに隙をうかがう。

 やがて、俺とハーゲンはほぼ同時に動いた。

 俺とハーゲンの距離が縮まり、互いの剣撃が交差する。


ガギンっ!


 という鋭い金属音が弾けた。

 俺の剣がハーゲンの剣を叩き折った音だ。


「ば、馬鹿な!」


 まさか剣が、叩き折られるとは思わなかったのだろう。

 ハーゲンの端正な顔が、驚愕で染まる。 


 俺は、ルイズ、フローラ、エルフリーデの能力を模倣コピーしたのだ。

 ハーゲンの剣を折るなど容易い。


「ハアっ!」


 俺は剣の平で、ハーゲンの顔をぶっ叩いだ。


「ぶげらァ!!」


 ハーゲンが情けない声をあげて後方に吹き飛ぶ。

 20メートルも吹き飛んで、地面に何度もバウンドした。


 そして、仰向けに倒れるとピクリとも動かなくなった。

 俺は剣を鞘に収めた。

 ルイズを殴ろうとした罪はこれで勘弁してやるか。


 うん。

 なんだかスッキリした。


 ハーゲンたちに馬鹿にされた事も、これで憂さが晴れた。





◆◆◆




 俺たちは、気絶した勇者ハーゲンたちを街道の脇に移動させた。


 そうしないと通行の邪魔だからな。


 ハーゲンたちの容態を見たが、どれもたいした怪我はしてない。


 よく診察すると、ハーゲンの鼻骨と頬骨が折れていたので、俺は治癒魔法で治してやった。


「世話の焼ける人達ですね」

「にゃー、関わると面倒なタイプだねー」

「ん。二度と関わりたくない」


 希少種の美少女三人が、ウンザリした顔をする。

まったくルイズたちの言うとおりだ。

 ハーゲンたちはまだ気絶していた。


 ハーゲンだけでも起こして、ルイズを殴ろうとした事を謝罪させようかと提案したが、ルイズは、


「必要ありません」


 と首をふった。


「ハーゲン殿に謝罪されても無意味です」


 ルイズが言うと、フローラも、


「ルイズの言うとおりだよ。どうせ口先だけの謝罪しかしないにゃー」

「ん。無意味。師匠、早くここから立ち去ろう」


 エルフリーデが俺の服の袖をつまむ。


「そうだな」


 俺は肩をすくめた。

 立ち去ろうとすると、魔導師ベアトリスが目覚めた。


「ひ、ヒィイイ!」


 ベアトリスが、怯えて尻もちをつきながら後退る。

 猛獣に怯えるネズミみたいだ。

 別に何もしないよ。


「怯えるな。もう決闘は終わった」


 ベアトリスが、それでも涙目で震える。

 いつもの生意気な態度が消え失せてる。

 自分よりも強い奴には弱いタイプなんだな。


「ベアトリス」


俺はふと思いついて、ベアトリスに視線を投じる。


「は、はいィ!」


ベアトリスが、ビクリと震える。


「ハーゲンが目覚めたら伝えろ。『今後はもっと勇者らしい振る舞いをしろ。最低限の礼儀や礼節を弁えろ』とな」


 曲がりなりにも勇者なのだから、今のような性格では困る。


 まあ、ハーゲンに君子になれと言っても無駄だろうが、少なくとも最低限の道徳心を持って欲しい。


「か、必ず伝えますゥ!」


 魔導師ベアトリスが、土下座して頭を下げた。

 俺は肩をすくめた。

 そして、俺たちは無言で立ち去り、馬車に乗り込んだ。 






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