第21話 撤退

 翌朝。

 宿屋から出ると冒険者ギルドに行き、昨日狩った魔物の魔石と素材を買い取ってもらった。


 フランシアという受付嬢が応対してくれた。

 金髪碧眼の美人で、年齢は多分17歳前後。


 可愛い顔立ちの女性だ。

 俺が勇者ハーゲンのパーティーから追放された事は知っているだろうに、そこに触れないでいてくれるのも有り難い。

  


 気配りできる女性って良いね。

 俺が、依頼を受けたい旨を告げると、フランシアさんは、


「なら、このダンジョンの調査は如何でしょうか?」


 と勧めてきた。


 フランシアさんが言うには、半年ほど前に新たなダンジョンが発見されたらしい。

 多くの冒険者が、新しいダンジョンに潜った。


 だが、ダンジョンに仕掛けられているトラップが非常に高度で、冒険者の死傷者が相次いでいるらしい。


 冒険者ギルドとしては、是非とも調査してもらい、ダンジョンの情報を少しでも多く得たいそうだ。


「もちろん、調査がお嫌でしたら強制はしません。たんにダンジョンに潜って頂くだけでも結構です。魔物を討伐した場合の魔石や素材の買取は、通常通り行います」

「魔物のレベルは?」

「魔物はB級が多数確認されています。それに加えて、高難度のトラップが多数仕掛けられている危険なダンジョンです。どうかお気をつけ下さい」


 フランシアさんの顔に緊張の色が浮かぶ。

 俺は頷くと、ルイズたちに相談した。


「どうする?」

「良い依頼だと思います。新しいダンジョンは財宝も多いと聞きますし」


 ルイズが答える。 

 ハイエルフの少女が言うとおり、新しいダンジョンは財宝が多い。


 理由は単純で、発見されて新しいダンジョンは潜る冒険者が少ないから、その分だけ財宝が多く残されているのだ。


「ダンジョンに潜りたいにゃー。力試しがしたい」

「同感」


 フローラとエルフリーデも乗り気だ。

 俺は依頼を受けることにした。





◆◆◆

視点【勇者ハーゲンのパーティー】

◆◆◆



 勇者ハーゲンのパーティーは、『疑心の迷宮』に潜っていた。

 五日連続で、ダンジョン攻略を続けているが、苦戦続きだった。


 あまりにも多くのトラップがあり、何度も引っ掛かってしまうのだ。

トラップに引っ掛かる度に、猛毒、爆発、火炎、雷、『魔物モンスターハウス』への強制転送など、甚大なダメージを負った。


「もうダメだ! ハーゲン、撤退しよう!」 

  

 戦士グスタフが、叫んだ。

 隻眼の戦士の顔は青ざめ、全身が汗で濡れていた。

 彼だけではない。

 勇者ハーゲン一行は、すでに満身創痍だった。


「撤退だと! こんな程度のダンジョンでか?」


 勇者ハーゲンが、端正な顔に怒りの表情を浮かべる。


「グスタフの言うとおりです~。も、もう、限界です~」


 神官アリアが、勇者に進言する。


「もう全員、体力も魔力もねェ……。全滅しちまうよ……」


 いつも強気な魔導師ベアトリスも弱音を吐いた。


 彼女の言うとおり、全員の体力と魔力が尽きかけていた。このままでは全滅は必至だった。


 勇者ハーゲンは、全員の顔を見て、舌打ちをした。


(確かにこいつらの言うとおりだ……)


 金髪碧眼の勇者は、彼らの言い分を認めざるを得なかった。

 こんな状況で魔物の群れに襲われたら、全滅してしまう。


(魔物は簡単に倒せるのに……。まさかトラップでこんなに苦戦するとは……)


 勇者ハーゲンは、親指の爪を噛んだ。

 イラついた時の彼の癖だった。

 数秒沈黙し、親指の爪を噛んだ後、勇者ハーゲンは指示を出した。


「分かった撤退する……」


 リーダーである勇者ハーゲンが、そう言うと彼の仲間は安堵の吐息をついた。

 



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