第19話 カインの過去

俺は一つ頷くと、


「……俺の故郷の村はエルドラス王国の北部にある小さな村だった。山間部にある村で本当に小さな村だったよ……。そして、俺が10歳の時に魔物の群れに滅ぼされた」


 俺は彼女たちに説明した。

 俺は幼い頃から冒険者に憧れていた。


 そして、元冒険者の叔父に武術や魔法を習っていた。

 ある時、叔父と一緒に山に狩りに行った。ウサギや鹿を狩るのが目的だった。

 山で夕方まで狩りをして、家路についた時、異変に気付いた。


 今でもあの地獄は鮮明に覚えている。

 村は燃えていた。

 魔物が、村を襲ったのだ。


 両親も村人も仲の良かった友人も全員、殺された。

 まさに血の海だった。

 幸い村に運良く滞在していた冒険者一行が、奮戦してくれた。

 そのお陰で、幾人かは命が助かった。


 だが、俺の両親は死に、家は燃えてしまった。俺の家だけでなく、全ての建物が灰燼に帰した。


「元々平和な村だった……。それが徒となったのかも知れない。武力で自衛する事をなおざりにしていた……」


 俺は紅茶を静かに飲んだ。

 ルイズたちは、食い入るように俺の話を聞いていた。


「両親と村人たちの墓を作って葬儀を終えた後、俺は叔父と一緒に村を出た。隣村に拠点を移して、修行に明け暮れた。


 俺は両親の死を契機に、冒険者になって世界の平和に貢献する事を誓った。俺みたいな人間を一人でも多く減らしたい。少しでも世の中の不幸を減らしたいと強く思った。


 俺は叔父の元でさらなる修行に励んだ。叔父は優秀な指導者だった。俺に冒険者としてのノウハウを全部叩き込んでくれた……」


 叔父は人間的にも尊敬に値する人だった。

 今も感謝している。


 だが、唯一の肉親である叔父も、俺が15歳の時病死した。


 その後、俺は一人で冒険者として活動し出した。その後、勇者ハーゲンたちと出会って、パーティーに加わった。


 俺には魔王を倒す才幹と器量はない。


 だが、冒険者として少しでも多く魔物を倒して、世の中を平和にしたいという思いは消えていなかった。


 勇者ハーゲンたちともに数多の冒険をして、多くの魔物を倒した。 

 勇者ハーゲンの補佐役として、平和に貢献できるのが嬉しかった。

 俺はその事を誇りにしていた。 


「だが、まあ結局は勇者たちからは追放される事になったけどな……。だけど、今でも世界の平和に貢献したいという気持ちは消えていない。冒険者を続ける事で、誰かの役に立つことがきっと出来ると思っている」


 俺は全て言い終えると、紅茶を飲んだ。

 ルイズたちは真剣な顔で、口を閉ざしていた。


 沈黙が流れた。

 やがて、ルイズたちが口を開く。


「先生、話して下さって、ありがとうございました。私も及ばずながら、先生のように大義の為に生きていきます」

「にゃ~、カインは立派だよ。本当に尊敬する」

「ずっと師匠についていく」


 希少種の美少女三人が、真剣な顔で言う。


「大袈裟だなぁ。大義だなんてカッコイイものじゃないよ」

「でも先生は二度も私達を助けて下さいました」

「にゃ~、少なくとも、私たちはカインのお陰で救われたよ」

「師匠のお陰で救われた人間が、三人もいる」


美少女三人が、まっすぐに俺を見る。

 そうか。

 そうだよな。

 俺は彼女たちを救えた。


 俺の過去も信念も、無意味じゃなかった。

晴れ晴れとした気分が俺の胸に広がる。

 爽やかで心地良い風のような気分だ。

俺は思わず、右隣にいるルイズの頭に手をおいた。


「え? あの、先生?」

「ありがとな……、口じゃあ、上手くいえないけど……。ルイズたちのお陰で俺も救われた」


俺はルイズの銀髪の頭を優しく撫でた。

 想いを伝えるようにハイエルフの少女の銀髪の頭を優しく撫でる。


「は、はうぅう……」


 ルイズが、耳まで真っ赤になった。


「あ、すまない。嫌だったかな?」


 しまった。

 つい、子供扱いしてしまう。 


「い、いえ……、う、嬉しい……です」


 ルイズが、モジモジと口に手を当てて言う。


「ルイズだけずるいにゃ~、カイン。私も喉を撫でて~」


 喉を撫でるって、猫なのか?

 あっ、猫神族か。


「これで良いか?」


 俺はフローラの喉を撫でる。

 翠緑色エメラルドグリーンの瞳の猫神族は、嬉しそうに目を細める。


「にゃ~♪ ゴロゴロ」


 フローラが、心底気持ち良さそうに言う。


「じゃあ、私も」


 エルフリーデが立ち上がり、テクテクと歩き、俺の後ろに来る。

 そして、俺の背中に抱きついた。


「? なんで俺に抱きつくんだ?」

「ノリと雰囲気」


 精霊族の美少女が言う。


「ノリと雰囲気か」


相変わらずエルフリーデは、時々考えが全く読めない。


「それと寒くなってきたから師匠を暖房代わりにしてる」


エルフリーデは俺をぎゅっと抱きしめた。


「それが本音だな」


 俺は暖房器具か。

 まあ、確かに少し寒くなってきた。

 空を見るといつの間にか曇り空になっている。

 風も急に冷たくなってきた。


「少し冷えてきたな。紅茶を温め直すから飲んでくれ。休憩が終わったら、魔物狩りを再開しよう」 

「了解です」

「分かった♪」

「ん」


 希少種の美少女三人が答える。


 その後、夕方まで魔物狩りをして、100匹以上の魔物を討伐できた。

 俺をふくめて全員、能力の扱いに相当慣れた。

 これなら、そろそろ冒険者ギルドの依頼を受けても大丈夫だろう。

王都に戻ると、沢山夕食を食べて、すぐに寝た。


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