第18話 カインの手料理

 料理が出来ると無限収納のカバンから、皿を取り出して配った。

 コップにはリンゴのジュースを入れる。

 皿もコップも俺のお気に入りだ。


 自慢じゃないけど、かなり良い品物だ。

草地の上にシートをおいて、料理を置いた皿を並べると、ルイズたちの目が輝いた。


「凄いです。森の中でこんな料理を食べられるなんて……」

「レストランみたい。最高だにゃー♪」

「師匠。一生ついていく」

「うん。エルフリーデ、簡単に餌付けされないようにね」


 もっと自分を大事にしよう。

 料理で一生を決めちゃダメだよ?

 今回のメニューは、

 ウズラの卵のスープ。

 牛ホホ肉の赤ワイン煮込み。

 パン。

 レタス、キュウリ、トマトのサラダ。

 デザートは、林檎の砂糖漬けだ。


 エルドラス王国は、南部で香辛料や砂糖が沢山取れるので、色々なメニューが出来る。


 牛ホホ肉は、本当は二日間くらいつけ込むと良いんだけど。まあしょうがない時間がなかったからな。


「美味しいです!」

「舌がとろけるにゃ~♪」


 ルイズとフローラが喜んでくれた。


「美味しい。師匠の料理の為なら魂を売っても良い」


 エルフリーデ、簡単に魂を売るな。


「お口にあったようで嬉しいよ」


 俺は微笑した。 

 しかし、フローラは本当に良く食べるな。

 フローラの分だけ五人前にして良かった。


 もっと沢山、お金を稼いでフローラの食事代を確保しないとなぁ。

食事が終わると全員、幸福そうに顔を緩めた。


「ご馳走様でした……。先生、本当にありがとうございます」

「ありがとう、カイン♪ 私は今最高に幸せだにゃー」

「いつもの干し肉とは段違い……」


 全員、満足してくれたようだ。

 俺は紅茶を彼女たちに注いでいく。


「紅茶まで飲めるとは……、なんだか夢心地です」

「冒険者は大変な仕事だからな。美味しい食事で英気を養うのは大事な事だ。冒険者になってから俺は食事の大切さに気付いた」


 俺は自分で淹れた紅茶を飲んだ。

 うん。良い味だ。


「冒険者になってから、ですか、含蓄がありますね」


 銀髪金瞳のハイエルフの少女が感心した顔で言う。


「ねぇ、カイン。カインはどうして冒険者になったの?」


フローラが、両手でティーカップを持ち、一生懸命フーフー冷ましている。猫舌なので、冷まさないと飲めないらしい。


「ん。興味津々。聞きたい」


 青髪の精霊族の美少女が、水色の瞳に好奇心の光をゆらす。


「私も、宜しければ聞かせて頂きたいです」


 ルイズが、身を乗り出して美しい顔を近づける。


「冒険者になった理由か……。まだ話してなかったな。やっぱり魔物に両親を殺され、故郷の村を滅ぼされたからだろうな」


 俺は紅茶を飲んだ。

 静寂が落ちた。

 ふと気付くと、ルイズ、フローラ、エルフリーデが、顔面蒼白になっている。

 ああ、しまった。

 こういう話は、彼女たちには免疫がなかったかな?


「にゃ~! ご、ごめんなさい! 私、馬鹿だから不躾で……、にゃ~、なんで私はこんなにお馬鹿さんなんだろう……」


フローラが自分の頭をポカポカと殴る。


「猛省。師匠、ごめんなさい」


 精霊族の少女が、俯いて身を縮める。


「先生、申し訳ございませんでした!」


 ルイズが、立ち上がり軍人のように頭を下げる。

 彼女たちの態度に俺の方が慌てた。


「気にするな。別に怒ってもいないし、不愉快にも思っていないから」

「し、しかし……」

「にゃ~……」

「罪悪感で胸が痛い」


 元弟子の美少女三人が、罪悪感で痛みをこらえるような顔をしている。


「本当に気にするな。こんな話し世界中でありふれている。冒険者稼業をしていくなら、こんな程度の話は聞き流せるくらいじゃないとやっていけないぞ?」


 これは事実だ。 

 冒険者には、家族や友人を魔物に殺された人なんて山ほどいる。

 いや、冒険者だけじゃない。

 この世界には、魔物によって大切な人をなくした人が、数え切れない程いる。


「そうだな。ちゃんと俺の過去も話しておいた方が良いな。皆には俺の事をもっと知って欲しいし、俺も皆のことをもっと知りたい」


 俺はティーカップを両手でもてあそびながら言った。


「だから、少し暗い話になるけど聞いてくれるか?」


 俺が問う。

 ルイズ、フローラ、エルフリーデは真剣な顔になった。

 そして、三人の美少女たちの瞳がまっすぐに俺を見ていた。

 ルイズが、口火を切った。


「知りたいです……。私はもっと先生を深く知りたいです。私は……先生の事なら何でも知りたいです」

「にゃ~、私もカインの事を知りたいよ。そして……、そして、出来れば私の事も全部、全部知って欲しい」

「知りたい。私も師匠なら……、私の事を全て話す」



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