幸せなこと――それは君がそばにいること。

雨杜屋敷

幸せなこと――それは君がそばにいること。


 幸せなこと。

 それは君がそばにいること。

 不幸なこと。

 それは家にはもう帰れないこと。


 雪のように白いベッドに腰掛けたまま寒々とした空を眺めていると、風が窓を揺らす。

 僅かに残った枯れ葉たちが、空へと舞い上がっていく。


 幸せなこと。

 それは君がむいてくれるミカンの味。

 不幸なこと。

 それは昔よりもその味が分からなくなってきたこと。


 君の細くて白い手も、私同様に随分としわくちゃになってしまったものだ。

 君なんて、手が黄色くなってしまっているじゃあないか。


 幸せなこと。

 それは、君がこんなくだらないセリフにもちゃんと笑ってくれること。

 不幸なこと。

 それは、君が一人の時、泣いているのを知ってしまったこと。


 私の前ではいつも暖かい笑顔を向けてくれたね。

 辛い時も、病める時も、君の笑顔に救われた。


 幸せなこと。

 それは、まだもう少し時間が残されているということ。

 不幸なこと。

 それは、もう僅かしか時間が残されていないということ。


 君のお父さんに、娘を泣かせたら承知しないと挨拶の時言われたね。

 きっとお父さんに会ったら、沢山叱られてしまうだろうな。


 幸せなこと。

 それは、まだ君と会話ができること。

 不幸なこと。

 それは、まだ君と会話ができてしまうこと。


 君は、なんでも聞いてくれるよね。

 だから、つい弱音を言ってしまいそうになるんだ。


 幸せなこと。

 それは、幸せがありふれたものであると気づいたこと。

 不幸なこと。

 それは、自分が幸せであると気づいてしまったこと。


 恐れは身体を凍てつかせ、心も凍らせる。

 だけど君が手を握っていてくれるなら、何も怖くなくなるんだ。


 ありきたりな言葉だけれど、君は僕の太陽だから。

 君と生きてこれたことが、何よりも幸せだったから。


 だから僕は今、とても不幸で、とても幸せだ。

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幸せなこと――それは君がそばにいること。 雨杜屋敷 @AmamoriYashiki

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