16.同人誌みたいな逸話ってあるんだよ【6】

 前回は参考文献が多かったため文字数が一際多くなりました。今回も同じくインド叙事詩マハーバーラタから。今回は前回までのトンチキから一転、ドシリアスな方向で語っていきましょう。


〈カーストの破壊者とその心の友〉

 今回の主人公はマハーバーラタ屈指の悪役ドゥルヨーダナとその友、カウラヴァの陣営です。

 まずはざっくりとドゥルヨーダナを説明しましょう。前回挙げたビーマと同じ日に生まれた血のつながらない従兄弟であり、12億人が死んだ大規模戦争の引き金です。この男はビーマを嫉妬から何度も殺そうと失敗していたりしますが、カリスマ性がとても高かったため戦争で最悪の死者数を叩き出しました。

 この心の友が御者の息子カルナです。幼名はヴァスシェーナ、カルナは「耳」「耳飾りをつけた者」という意味があります。訳あって生き別れていたパーンダヴァ五王子の兄でもありした。

 そして最悪の戦争の最後を飾ったのがアシュヴァッターマン。生まれた瞬間に馬のわななきのような産声を挙げたことが由来です。

 彼らはパーンダヴァ五王子と対立してクルクシェートラで18日間の大規模戦争を繰り広げました。


 インドではカースト制度が有名ですが、カルナは御者の身分であることでさまざまな不遇を受けることになります。そこに救いの手を差し伸べたのがドゥルヨーダナで、彼に国を与えて一国の主人にして王族にしてしまいます。

 このことから、カルナはドゥルヨーダナと永遠の友情を交わし、戦争が勃発してから実の母の説得を受けてもドゥルヨーダナの味方であり続けました。

 一方のドゥルヨーダナは最初は実力者であるカルナを味方にしたいという下心だったらしいですが、最終的にはカルナの戦死の知らせを受けて崩れ落ちて泣いてしまうほど取り乱します。

 身分に関係なく友情を交わし、友のために泣いてくれる男ですから多くの人が彼について行ったのでしょう。


 そして戦争の実質的な終結を飾ったアシュヴァッターマン。彼は父方母方両方に聖仙がいる血統の優れたバラモンでした。山際版には長文で突然彼の美しさを讃える文章がカットインするほどの美青年でもあります。

 彼はクルクシェートラの戦争で父が騙し討ちされてしまいますが、それでも戦争の最中ではドゥルヨーダナに「妥協点を決めて今からでも戦争を止めないか」と提案しました。

 それでもドゥルヨーダナは戦争を続行、18日目にカルナとドゥルヨーダナは戦死します。カルナは沈み込んだ戦車の車輪を引き上げている時に後ろから、ドゥルヨーダナは決闘の最中に決闘のルールを破られ左脚と顔面を潰されてしまいます。

 これによってアシュヴァッターマンは、当時最大の禁忌とされていた夜襲を決行。パーンダヴァの陣営の人間の大半を殺戮してしまいました。

 父親が殺された時でさえ「戦争を止める」選択肢を持っていた男、そして高潔であるバラモンが慈悲を捨てたエピソードでもあります。



 今回の話もいかがだったでしょうか。同人誌並の感情の湿度をやってくれるのがマハーバーラタです。興味の湧いた方は是非とも読んでみてください。

 参考文献は前回挙げているので、ここでは割愛します。

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