10.簡単なお話の作り方

 今回は「こんなんでいいの!?」となりそうなお話の作り方について書いていきます。とは言っても、原作や元ネタありきの書き方なので「ほーんなんか面白そうやな」的な感覚で読んでください。


 せっかくこの創作論には「民俗学」のタグがあるので、そこから話を膨らませてどうやったらお話が作れるかという一例を書いていきます。


 今回は題材として「赤ずきん」を使いましょう。

 知らない人はいない有名な童話です。元はドイツの童話で、黒い森すなわちシュバルツバルトを舞台とした童話ですね。「これをどう使うの?」となると思うので、順序立てて書いていきましょう。ちょっとだけ民俗学にも関わるお話をします。



 まず大前提として民俗学的な話から。

 童話というのは、物語の根幹に関わる情報以外は除外される傾向にあります。例えば「桃太郎」みなさん桃太郎の童話では桃太郎の育ての親の名前出てきますか?他には「かぐや姫」または「竹取物語」において、最初に出てくる「竹取翁」の本名は?おばあさんの名前あるいは通称は?

 出てこないでしょう。これは、「物語の根幹には必要のない情報」として削除されてしまっているからです。



 話を戻しましょう。これは、こういった視点から物語を膨らませれば、それで一つのオリジナルとして成立するという、本当に「元ネタありき」の書き方です。


 まずは「赤ずきん」のあらすじを順を追って書いていきましょう。「この部分はいらなくね?」と思っても後からちゃんと解説します。


1.赤ずきんが母親から「おばあさんのお見舞いに行ってね」とお使いを言われる

2.赤ずきんは母親から「寄り道してはいけない」と言われる

3.道中狼に唆されて寄り道してしまう

4.狼はおばあさんを食べてしまう

5.赤ずきんが問答の末、狼に食べられてしまう

6.通りかかった猟師に助けられる


 これが「赤ずきん」のあらすじです。ここから、アレンジの余地がある部分を追求して、オリジナルで補完してしまえば一つのストーリーが完成します。


1.赤ずきんが母親から「おばあさんのお見舞いに行ってね」とお使いを言われる

 よく考えてください。舞台はシュバルツバルト、すなわち黒い森。しかもこ序盤では「狼が出るから気をつけなさい」と警告もされます。

 最初のツッコミどころです。森の外に娘と孫の住居があるなら一緒に住めばいいものを、森の中でわざわざ過ごしているのは何故?

 これには「魔女である」という可能性もあるのでツッコミをここら辺でやめましょう。次。

 母親からもずっと赤ずきんと呼ばれ、お話の終盤でもおばあさんに扮した狼に赤ずきんと呼ばれています。子供の名前を頑なに呼ばない、開示しないのは何故でしょう。

 これ本当にツッコミどころです。狼が出て「寄り道してはいけない」と警告するぐらいなら何故子供一人で行かせるのか。普通の保護者は考えないはずです。

 お母さんとのやりとりが印象に残って影が薄いどころか、存在すら描写されないお父さんはどこでしょうか。

 頑なに赤ずきんとその母が所属しているコミュニティの情報がないのも、童話では不要とされて削除されたのでしょう。しかし、赤ずきん以外の子供の存在が徹底的に描写されないのです。


2.赤ずきんは母親から「寄り道してはいけない」と言われる

 「これが何?」と思われる方もいらっしゃると思うので、これについても解説します。物語、童話では時々こう言った「約束事」が登場します。これは「ギアス」「ゲッシュ」「セルマン」とも言われるいわゆる誓約で、基本的にとなっています。

 この「ギアス」を破ると碌な目に遭いません。その場では無事でいられても、因果応報が巡って必ず悲惨なことになります。これは神とその息子以外は破ることができないため、悪魔でさえ契約に縛られるのです。

 赤ずきんはこの時「寄り道をしてはいけない」という誓約が発生していました。このため、因果応報が巡って赤ずきんは狼に食べられるという結末を迎えています。


3.道中狼に唆されて寄り道してしまう

 最早「狼が人語を解している」というツッコミは諦めましょう。ここで語りたいのは、「誓約を立てた主人公を唆す存在」についてです。

 あからさまに「寄り道をしてはいけない」という誓約を意識して狼は誘導しています。食べたいならその場で食べればいいものを、周りくどく狼は赤ずきんを寄り道させています。ここで赤ずきんを唆す理由はないはずです。


4.狼はおばあさんを食べてしまう

 おばあさんなんで狼が出る森に一人暮らししていて狼に食べられるのさ!?というツッコミが入れられると思います。

 病気というデバフが入っていることを十分考慮しても、狼を撃退するための罠などは一通りあるはずです。それを突破する狼もすごいですし、それ以前に赤ずきんのおばあさんの家を特定している狼が何者でしょうか。


5.赤ずきんが問答の末、狼に食べられてしまう

 有名なシーンですね。問答が出てくるのがヨーロッパの童話や伝承らしいと言えるでしょう。ここで、赤ずきんは「寄り道をしてはいけない」という誓約を破った報いを受けます。これで誓約と誓約破りの罰の回収ができました。


6.通りかかった猟師に助けられる

 これに関してはツッコミ所を入れる余地はあまり無いですが、このエピソードの存在意義としては「弱者である赤ずきんが因果応報の報いを受けた救済措置」でしょうか。この猟師も割と謎が多いですが、猟師は猟師ということにしておきましょう。


 ここまでで「元ネタ」を利用した話の構想が作れる方もいらっしゃるでしょう。こうしたところが民俗学の面白いところでもあります。

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