Scene2 瑞葉

第7話 この街で育った 渋谷

 渋谷駅は複雑な駅だと感じていた。この駅で電車を降りる度に、駅の中をぐるぐる歩き回っている感じがする。


 鹿島瑞葉かしまみずははA大学一年生。演劇部で日々その活動を楽しんでいた。

 二年生の恵人けいとがお気に入りの先輩だった。恵人は誰に対しても優しく。瑞葉にも入部当初から優しく接してくれた。瑞葉は、すぐ彼を好きになった。


 彼女が少し気に入らないのは、恵人が三年生の慈代やすよと特別仲良くしているのを感じることだった。

 他の先輩女子から「恵人はだめだよ……慈代さんがいるから……」と釘を刺されることがあった。

 しかし、好きになってしまったものは仕方がない。何とか、うまく距離を取りながら、恵人と付き合っていきたいと思っていた。

 そうでなければ、演劇部に居場所がなくなる気がしていた。


 まだ大学生としても演劇部員としても新入生の瑞葉からすると、一つ上の学年は大先輩で、二つ上の先輩たちは俳優さん、女優さんという感じだった。いろいろなキャラクターはあるにせよだ。


 三年生の浅香晴美あさかはるみ松宮麗まつみやうらら中澤慈代なかざわやすよは神だった。

 声を掛けるのもはばかられる存在。そして、声を掛けられると緊張するほどの存在だった。


 この三人は美しさも舞台での演技も女優のレベルだった。何かオーラを背負っている感じがあった。

 そして、浅香晴美あさかはるみ松宮麗まつみやうららはプロの劇団に所属していた。


 恵人を好きな瑞葉にとって、彼を好きな以上、慈代はライバルになる。

 瑞葉の同級生で学部も同じ木原芽衣きはらめいは、いつも瑞葉のそばにいた。 

 芽衣は瑞葉に言う。

「好きになっちゃったら、どうしようもないよね。だけど、慈代さんがライバルっていうのはきついよね」


 普通に考えたら慈代をライバルなどということが普通ではない。

 もし、恵人を好きにならなければ、こんな強敵をライバルと思うこともなかっただろう。


 こんな感覚は今までの人生で感じたことがない。自分の好きな男性より、自分のライバルになる女性の方への意識が半端ない。

 自分自身の気持ちからも、周囲の視線からも、とてつもない圧を感じる。

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