第8話 瑞葉

 その日、演劇部の練習が終わると、皆で一緒に食事に行くことになった。

 そして、渋谷の街で食事をした後、恵人けいとのアパートで続き……ということになった。

 一、二年生の数人が一緒に行くことになり瑞葉みずはもついて行く。

 大好きな先輩である恵人のアパートに数人が行くのに自分が参加しないわけにはいかない。


 そして、その日は、みんなで恵人の部屋に泊まることになった。

 夜遅い時間、恵人に電話が掛かってきた。

 話し終わった恵人に良太が言う。


慈代やすよさんから?」

「うん」

「いいなあ。年上の恋人」


 瑞葉は微笑む恵人に悔しい気持ちが湧く。そんな会話を振る良太にも腹が立った。


 瑞葉の同級生のあやが恵人に、

「もうキスはしたんですか?」

 と聞く。

「え、そんなこと……いいじゃない」

 動揺する恵人。


「してるぅ。その慌てぶりぃ」

 と言って笑う。


「慈代さんって清楚でおとなしい感じなのに、結構、積極的なんだ」

 みんな興味深々という感じだが、恵人が会話を制した。何か慈代のプライベートをみんなの前で晒さらしたくない。そんな感じだ。


 その後、他愛ない話が続く。

 夜遅くなり、それぞれに眠っていく。眠そうにしている恵人の隣にいた瑞葉が呟く様に聞く。


「恵人さんちって、今日みたいにいろんな人が訪ねて来るんですか?」

「時々ね」

「じゃあ、私も時々来ようかな……」

「え?」

「だめですかぁ?」

「いや、友達と一緒にね」


「……」

 不機嫌そうな顔をする瑞葉。


 恵人も瑞葉の気持ちはわかっていた。しかし、恵人には慈代がいる。

 かわいい後輩としか見ることができない瑞葉にどうしてあげることもできなかった。


 次の朝、皆が帰ったあと、部屋の中を片付けていると、誰かの財布がテーブルの下にあった。


「誰だろう?」

 見てみるとカードが何枚か入っている。カードにMIZUHA KASHIMAという文字がある。


 瑞葉が急いで戻ってきた。


「あ、瑞葉ちゃん、これ」

 財布を差し出すと、


「あ……中、見たでしょ。エッチ」

「いや、見てないよ」

「なんで私の財布ってわかったのよ」

「いや……勘だよ。勘。ほら、あるでしょ」


 瑞葉が微笑む。

「先輩。好きです」

 そう言って玄関口で、瑞葉はいきなり恵人の唇にキスした。


 そこに慈代が現れた。


「え! 慈代さん……」


 恵人と瑞葉は言葉を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る