第3話 誕生日の前の夜 梓

 あずさは誕生日の前の夜。大学時代から親友の三村玲子みむられいこに電話を掛けた。


「久し振り。玲子」


「あら、あずさ。めずらしい。電話くれるなんて。嬉しいわ。元気にしてる?」


「うん。相変わらずって感じだけどね」


「そう。沖本おきもと君とはうまくいってるの? 沖本秀人おきもとひでと君」


「……」


「どうしたの?」


「それがさあ……恵人けいと。覚えてる?」


「うん。あずさのこと好きだったね」


「え? でも、あなた沖本君じゃないの?」


 あずさは少し困ったような感じで口籠くちごもる。


「恵人がさあ。私の誕生日祝ってくれるの」


「ああ、そういうこと……」


 玲子はあずさが言いたいことを理解できた気がした。


あずさ、よくないよ。それ。優しくないよ……」


「そうだよねぇ……なんか、言い出せなくて」


 梓が困ったような口調で言う。


「あなたねえ。恵人をキープしておこうとか、そんな気があるわけでもないんでしょう。ただ優しいから、断れないみたいなんじゃない?」


「まあ」


「それ、あずさの方が優しくないよ」


「タイミング逃しちゃった感じ……」


「難しいよねタイミング外しちゃうと……」


「うん」


「でも、梓、はっきり断ってあげた方がいいと思うよ」


「そうだよね。なんか今回はいろいろ準備してくれてるみたいだから……タイミング見て言うよ」


「そうね」


 梓は電話を切り、溜息をついた。


 結局、梓は誕生日を祝ってもらい、後日、本当のことを伝えることにした。


 誕生日は金曜日だった。梓は仕事を終えてすぐに恵人けいとのアパートに行くことにした。

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