大掃除
カステーン大公爵の館がキレイになった。
その噂は瞬く間に王国中に広まっていった。
本当ならばそんなこと、わざわざ伝えまわるようなことではないのだが、微妙に紆余曲折して『カステーン大公爵がキレイになった』に変わり、最終的には『カステーン大公爵が改心した』という風に変わったのだから、瞬く間に広まるのも無理はない。
誰しもが大なり小なりカステーン大公爵の悪事を知りつつも王すら飲み込みかねないほどの権力を持っているために何も言えないでいたのだ。
だからこそ、半信半疑でカステーン大公爵の下にたくさんの使者が訪ねることとなった。
「な、なにがあったんだ?」
困惑の表情を浮かべるカステーン大公爵。
流れた噂はカステーン大公爵の耳にも入っている。
理由はわからないが使用人たちがかなり力を入れて館を掃除してくれたことも知っている。でも、ただそれだけだ。
なんで掃除が終えただけの屋敷を見にわざわざ使者を送るのだろうか?
まるでそんなことがあり得ない、とでも言うかのように……。
「もしかして私は掃除をしないという印象を与えていたのか!?」
もちろんカステーン大公爵自身は掃除をしない。
使用人に任せているためにそれは当然ともいえる。
「ちっ、そんな嫌な印象、すぐさま払拭してやる! 使用人たちを全員呼べ!! 今から大掃除だ!!」
こうしてカステーン大公爵はチリ一つ、埃一つ残さないように大掃除を決行するのだった。
これがスライムの行動を隠すきっかけになるのだが、そのことに大公爵はまるで気づかなかった。
◇◇◇
イルマがユナの料理を使って何かの研究を始めてから早一週間。
ようやく試作品が完成したようで、そのお披露目をすることになっていた。
クルトたちの前には自信ありげな表情を浮かべるイルマ。
その隣で沈んだ表情を浮かべるユナの姿もある。
「ユナはどうして落ち込んでるんだ?」
「料理……、うまくいかなかった……」
「そういう日もあるよな」
実際にはうまくいったことは見たことがない。
それでも料理がうまくいってるのかどうか位の判断ができるようになっていた。
そのおかげで今では無理やり食べさせられることはなくなっており、平和な日々が続いていた。
「それで今日はどんな爆発の実験なんだ?」
「どうして爆発前提なんだよ! もちろん成功するんだからね!」
イルマがわかりやすく怒りをあらわにする。
そして取り出したるは怪しげな色をした薬瓶である。
「ボクとユナの合作。名付けて『イルナ特性煙幕薬』だよ」
その言い方だと別人のようにしか聞こえない。
まぁ、出来はおそらく爆弾だろうが。
「それで俺たちはどのくらい離れていたらいい? ここだと爆発に巻き込まれるだろ?」
「だーかーらー、なんで爆発が前提なのかな? もういいよ、うまくいって後から吠え面かくといいからね」
そういうとクルトたちが逃げる暇を与えずにイルマは
両手を腰に当て高笑いを続けるイルマ。
成功を疑わないのはいいが、どうみても爆発の射程圏内である。
慌てたクルトは彼女を抱え、大慌てで逃げていく。
すると、当然といえば当然。まるで予定調和のごとく、イルマが放り投げた薬は大爆発を引きおこしていた。
「な、なんで!? れ、練習ではうまくいったのに……」
間一髪爆発から逃れることができたクルト達。
地面に空いた大穴を見て、イルマはがっくりと肩を落としていた。
「今までで一番の火力だな。上手くいったじゃないか!」
「爆発したから失敗に決まってるでしょ!?」
なんとかほめるところを探し出して、イルマの機嫌をとろうとしたのだが、逆効果だったようだ。
さらにそこから追い打ちをかけるかのように、紫色の煙がゆっくりクルトたちの方へ漂ってくる。
「ぐっ、もしかして煙幕ってこれのことか?」
思わず鼻をつまんでしまうほどの悪臭。
たしかにこの煙を出したかったのなら成功ともいえるだろう。
ただ、傍にいるクルト達からしたら地獄でしかなかった。
「く、臭っ……」
「はははっ、やはりボクの研究に間違いはなかったんだ!」
「どう見ても間違いしかないだろ!」
イルマの頭を小突くとなんとかして煙を追い払おうと皆で手で風を送るのだった。
そして、何とか煙が晴れると爆発のあとから地下へと続く階段がみつかるのだった――。
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