新兵器とスライム掃除機
当然ながらメリアだけで、ユナの食事をすべて消耗できるわけでもなく、俺たちの前にも同じものが置かれることとなった。
「せめて食えるものを作ってくれないか?」
「だ、大丈夫、ちゃんと食べれるよ。メリアさんも食べてくれたよ」
「……そのあと一時間意識を失っていたけどね」
もはや武器といってもおかしくない劇物へと進化を果たしていた。
これとイルマの爆発を併用すれば、領地の防衛も容易にこなせるかもしれない。
そんなことを考えていたクルトだったが、突然口の中に異物が放り込まれる。
「な、なにをするんだ。がはっ!?」
「ちゃんとおいしくできるよね!? 私、これを食べてこの領地に来たんだよ?」
「草……、雑草の味しかしないぞ……」
口に入れられた物から漂う青々しい香り。
一噛みすれば口いっぱいに広がる苦みや渋み。
もしかしたら健康にいい葉っぱを使っているのかもしれないが、クルトからしたらただの雑草を無理やり料理っぽくしたようにしか思えない。
「この草を食べてるとなんだかピリッと刺激を与えられてやる気になるんだよ」
「んっ、ピリッと?」
確かに舌を刺激する何かを感じる。
さらにそれは全身に広がっていき……。
「しびれ草……、毒草ですね」
「なんてものを食わせてるんだよ!?」
思わず机を叩いてしまう。
「で、でも、よく言わない? 腐りかけが一番おいしいって」
「腐ってるんじゃない! 毒があるんだ!」
「でもおいしいよね?」
「まずいぞ!」
あまりにも衝撃的な告白だったらしく、ユナはがっくりと肩を落としていた。
「そ、そうだよね。あまりにもまず過ぎて吐きそうだよね……。よく言われたんだ。お前の料理は劇薬だって」
同じ使い方をしようとしていたクルトはその言葉に反論ができなかった。
するとそのタイミングでイルマがやってくる。
「聞いたよ。ボクのために劇薬を用意してくれたんだってね?」
まったく言ってない上にあまりにもタイミングが良すぎたので、様子をうかがっていたように思えてしまう。
「げ、劇薬じゃありません! ちゃんとした料理です!」
「それはそれは、なおさらいいね。どれどれ……」
イルマは人の話を聞かずに指で軽くユナの料理を味見していた。
「がはっ」
当然ながらすぐに吐き出して倒れていたが、それでも錬金術師の執念か、意識は失わずにそれどころか倒れたまま、まるでゾンビのごとくゆっくりとした動きでユナに近づいていく。
「これだよ、これ。これこそがボクの探し求めていた最高の
「ほ、本当に?」
「あぁ、ぜひともこれを大量に用意してもらえないか?」
「皆さん、あまり食べてくれなかったのでかなり余っていますよ。全部持っていきますか?」
「もちろんだ!」
意気揚々とユナから大鍋を受け取るイルマ。
両手いっぱいでそれを抱えると嬉しそうに研究所へと運んで行った。
◇◇◇
一方、カステーン大公爵の館へと潜入することになったスライム。
特段、何かを思って行動しているわけではないのだが、自然とクルトのそばにいると温かい気持ちになった。
おそらくは自分に手を生やしてくれたからだろう。
だからこそ特段何かを思ってということでもなく、ただあの人のために動こう。
そんな漠然とした気持ちで屋敷の隅を動いていた。
あわただしく動き回る使用人たち。
雑務が多いためか部屋の端にいるスライムまで意識が回っていない。
よくみると隅のほうはほこりがたまっている。
そんな埃たちを吸収しながらスライムはゆっくりと目的地へ向けて進んでいく。
狙うはカステーン大公爵の書斎。
なんだかあの人が「必要な書類は……」みたいなことを言っていたが、スライムはよく理解していなかった。
そもそも書斎とはなんなのか、魔物であるスライムが認識できると思ったクルトの敗北でもある。
とりあえずどこかの部屋の
そして出来上がるのは埃一つないきれいな部屋。
それが大公爵の館中なのだから次第に騒ぎが大きくなる。
いったい誰がこんな丁寧な清掃を行っているのか、と。
どうしても腐りきった大公爵を間近で見ている使用人たちは手を抜く方法を学びすぎている。
今更どうして館なんてものをキレイにするのか。
ある者は嘲笑を。
またある者は別の媚売りかと考える。
ただこの奇天烈な行動も大公爵の思惑が絡んでいたら、とスライムの考えなしの行動が予想外に館内をさらなる混乱に巻き込むのだった。
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