黒幕対策
事件の黒幕、カステーン大公爵は教会を手に入れることができて満足げな表情を浮かべていた。
「くっくっくっ、これでこの国の大半を掌握できた。聖女を生み出し続ける教会は邪魔でしかなかったからな」
もちろん本来の聖女としての機能はすでにまともに動いていない。
魔を討つ者ではなくただの称号になり果てているために戦力としてはろくに期待はできない。
それでもその名前は力になる。
特に色々と言えないことを動いているカステーン大公爵からすれば純粋なる聖女の名前は自身の潔白さを表すのにちょうどいい。
他貴族連中も教会を恐れて何も言えなくなるうえに、勇者とのつながりもできる。
「……まぁ今の勇者は金で買えるけどな」
教会がなかったとしてもたいてい勇者は金欠で嘆いている。もしくは裏家業を行う勇者は大枚をはたけば依頼ができる。
少し強い程度の力しか持っていないので使い道には困るが。
「それよりも私にはより強力な力がある。それにいざというときには切り札も。もう少しだ。もう少しで国をとる準備ができる」
カステーン大公爵が高笑いして見せる。
そして、彼の準備が整ったそのタイミングが原作開始のタイミングでもあるのだった。
◇◇◇
「作戦……?」
ユナが不思議そうに首をかしげていた。
「いったい何をするの?」
「大公爵を獲る!」
「えっ!?」
さすがにクルトの口から信じされない言葉が出たようでユナは口をぽっかり空けて信じられなさそうにしていた。
「ど、どうしてそんなことを?」
確かに大公爵といえば国王陛下の兄弟である。
そんな人物を倒そうとしているなんて正気の沙汰に思えないのも仕方ない。
それでもクルトとしてはかませ犬にならないためにも何としても原作を始めさせるわけにはいかないのだ。
「ユナは今の王国がかなり歪だと思ったことはないか?」
「……うーん? 私は特にない……かな?」
「そもそも魔族が一体どんなことをしてきたんだ? なんで王国は兵を出さずに素人同然の勇者を送り出すんだ? どうして勇者にまともな装備を渡さないんだ?」
「えっと、それは勇者の数が多いから……」
「本当にその送り出した勇者は本当の勇者だったのか?」
クルトの言葉にユナはハッとする。
「えっと、でも、勇者かどうかは聖女様の信託によってわかることで……」
「ならその聖女……、いやそれを取りまとめる教会すらもグルだと考えたことはあるか?」
実際に原作が始まったタイミングで教会はカステーン大公爵の指示に逆らえない組織となっていた。
「そ、そんな……。で、でも、そんなこと誰も言っていなかった……」
「言おうとしたら消されるんじゃないか?」
その言葉にユナだけじゃなくて、メリアも思い当たる節があるようだった。
「もしかしてこの領地に私や勇者様が送られたのって……」
「もちろんこの領地が邪魔になったことと内々にイルマを処分するつもりだったのだろうな。ただの調査であえて勇者を連れてくる必要もないだろう」
「で、でも、勇者様がついてきたのは魔の気配があったから……と」
「それで実際に領内を見て、そんな奴はいたのか?」
「い、いなかった……です」
「ならばそういうことだ。直接自分の目で確かめずに大貴族様や教会、国のいうことに間違いはない、と信じた結果だな」
「そ、それなら私はどうして聖女になったのでしょう……」
今まで信じていたものを失って、メリアはがっくりと膝をついていた。
「それはメリアが考えることだな。でも、困っている人を助けたかったんじゃないのか?」
「そう……ですね。おなか一杯に食べられたら困ってる人を救えるって思っていましたから……」
「ならメリアはそうしたらいいんじゃないか? やりたいことをする。ただそれだけで……」
「わかりました。……あれっ? 今までとやることは何も違わないような……」
「それならやりたいことをちゃんとできていた、ということだな」
首を傾げるメリアだった。
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