薬の影響

 時は少しだけ遡る。


 満を持して投入した勇者や聖女がものの一撃で粉砕されたと聞き、神官長は危機感に駆られていた。


 そこに図ったかのように表れたのはカステーン大公爵である。



「おやおや、勇者を私物化してもよろしいのですか?」

「し、私物化などとは人聞きが悪い。人道に外れた悪がいたために制裁しようとしただけにございますよ」

「しかし返り討ちにあった、と。勇者がこれほどまでに役に立たなくてこの国は本当に大丈夫なのでしょうか? 我々貴族も教会には多額の献金を払っておりますが、その結果が雑魚勇者とあっては予算を削らざるを得ませんな」

「ま、待ってください!? たしかに今回の勇者や聖女はまるで役に立ちませんでしたが、ほかにも頼りになる人物はたくさんおりまして……」



 貴族からの献金が打ち切られてしまっては今までみたいな贅沢な暮らしはできなくなってしまう。それだけはなんとか避けようとしていた神官長。


 すると、そのことを察したカステーン大公爵は口元を釣り上げていた。



「下のものを動かすから信用できないのですよ。やはりここは信頼のできるあなた自身が動いていただかないと――」



 カステーン大公爵の言葉に裏があることは神官長もすぐに気づいていた。


 ただ、気づいたうえでそれでも手が打てないのだからたちが悪い。



「わかりました。では私が直々に調査しますので、その間教会のことを頼んでもよろしいでしょうか?」

「もちろんですよ。全て私めにお任せください」



 こうして教会のことをカステーン大公爵に任せて神官長はしぶしぶアントナー領へと向かうことになったのだった。

 ただ、領内に入った瞬間に突然謎の爆発に襲われてそのまま全治一か月の大けがを負ってしまうのだった。



◇◇◇




 ユナに言われて何か爆発に巻き込んでしまったものはないかな周囲を調べてみた。


 しかし、特段これと言って人が倒れていたり等はなかった。



「やっぱり気のせいじゃないか?」

「そうみたいだね……。気のせいなんだ……」



 さすがに直接調べたものを信用しないわけにはいかずに、不服そうながらもユナは納得していた。



「さて、しばらくこれを続けるしかないな」



 今回は最弱のスライムだった。これではとてもじゃないがユナのレベルは上がっていないだろう。


 目標がレベルアップであるために色んなトラブルが起こったもののそれだけで館へ帰るわけにもいかなかった。



「もう帰らない? ボクはこの興味深いスライムを早速解体したいのだが?」



 イルマが目を光らせているためにスライムは再び俺の後ろへと隠れてしまっていた。



「どうやらこのスライムはまだ巡回をしたいらしいな」

「仕方ないね。それなら今度こそボクの薬が成功してることを証明してみせるよ!」



 意気揚々と前を歩いていくイルマ。


 それからしばらくして領内に複数の爆発音が響くことになるのだった。




◇◇◇




「な、なんでうまくいかないの」



 結局イルマの薬が爆発しなかったのは最初の一回だけであとは見事に全部爆発していた。



「むしろなんでうまくいったのかを調べるべきだな」



 そもそも本来は人を変化させる薬のはず。


 スライムがなにも変化していないことを考えるとただ不発爆発薬だっただけなのだろう。



「絶対に次は成功させて見せるからね!」



 悔しそうにイルマは自分の部屋へと戻っていった。



「おい、このスライムはどうするんだ?」

「クルトになついてるから任せたよ」



 あとに残された俺たち。



「任されても困るのだが……」



 襲ってくる心配はないにしても魔物がいることに抵抗を持つ領民もいるだろう。

 これがイルマの薬で人にでも化けてくれればまた話は違ったのだが――。


 ただイルマが錬金術でうまくいくとは思えないので、こればかりは仕方ない。



「あの、クルト様? なんかそのスライム、光ってない?」



 ユナが恐る恐る言ってくる。


 もしかして時間差で爆発してしまうのだろうか?


 慌てたクルトはスライムを空目掛けて放り投げる。

 しかし、スライムは爆発することなく、さらに発光を強めていた。そして――。



「なんか突起が二つ生えたな?」

「まるで手みたいだね」



 確かに二つの突起はちょうど体……というか球体の中心部に左右対称の位置についていた。



「試してみたらわかるか」



 クルトはユナの持っている木の棒を勝手にとるとそのままそれをスライムに渡してみる。



「これを持てるか?」

「あっ、私の武器……」



 スライムはクルトの言葉がわかるようで、その木の棒を受け取るとそのまま振って見せていた。



「これは……」



 もしかするとすごく助かる拾い物をしたかもしれない。



「あの……、そろそろ私の武器を――」

「そうだったな。すまない。返してやってくれるか?」



 スライムは全身を使ってうなづいているようなポーズをとったあと、ゆっくりとユナに近づいて木の棒を返すのだった。



「あっ、ありがとう」

「案外賢いのかもしれないな」



 もしかするとクルトが欲しがっていたカステーン大公爵にダメージを与えるピースがそろったかもしれない。



「そうと決まったら早速作戦を考えないとな」




―――――――――――――――――――――――――――――

明日は外出予定のために更新できなさそうです。

申し訳ありません。


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