巡回
ユナを連れてクルトたちは周りの街道を巡回していた。
領地への入場料を取る理由に安心して領内の道が歩けるから、というものがあったのだ。
もちろんろくに兵を抱えていない今のアントナー領は盗賊たちが隠れ住むには格好の場所になっている。
名前のない『盗賊A』とか『盗賊B』とかならイルマの爆発だけで事足りる上に、もしネームドキャラが隠れているのなら、それはそれでクルトにとってはおいしかった。
ゲームでは当然のことながら倒すことしかできない相手なのだが、現実であるこの世界ならば彼らを仲間にすることができるかもしれない。
完全に人員不足である今のアントナー領からしたらそういったキャラたちは喉から手が出るほど欲しかった。
もちろん自分から進んで相手を殺しに行くようなキャラは信用ができないので、貴族に嵌められて借金を背負い、仕方なく盗賊に堕ちたキャラ。
そこが狙い目である。
もちろんそんなキャラがピンポイントでいてくれるとは思えないが、夢を見るのはただである。
「
イルマは嬉しそうに懐にある試験管を弄っていた。
なんでも人の姿を変えるという特殊な錬金術の薬らしい。
もちろん結果は爆発なのだろう、とクルトは苦笑いする。
「ほ、本当に私で大丈夫なのですか?」
ユナはぎゅっと木の棒を握りしめていた。
「問題ないだろうな。過剰すぎる戦力だから」
「で、でも……」
「安心してください。何かあっても私が治療しますから」
メリアが不安がるユナを勇気づけていた。
この辺りはさすが聖女である。
爆発聖女と違い、人の接し方に慣れている。
「そっか。それなら大丈夫だね。あっ、あそこに魔物がいるよ。ちょっと倒してくるね」
安心したユナは何を思ったのか、唐突に魔物へ向かって駆け出していく。
木の棒を掲げ、ただひたすらまっすぐに。
フェイントの類もなければ、特段早い動きというわけでもない。
クルトですら簡単に躱せそうな速度から繰り出された、人にも魔物にも優しい一撃。
それを受けた魔物。それはスライムだった。
球体状の魔物で柔らかい体は物理攻撃を軽減させる。
ただし、弱点属性の攻撃を加えたら一撃で倒せる上に、その弱点が目に見えるようになっているために雑魚中の雑魚として扱われる魔物であった。
「えいっ!」
そんな相手に対して渾身の一撃。
もちろん物理攻撃はどれが弱点のスライムであったとしても効果が軽減されてしまう。
少しだけ体が歪んだスライムだったが、すぐにその攻撃をはじき返し、そのままユナは尻餅をついていた。
「いたたたっ……」
ユナに迫るスライム。
「今助けるぞ」
――あの色のスライムだと弱点は……風だな。
クルトは手に魔力を込め、風魔法を放とうとする。
ただそんな彼に割り込む人間がいた。
「実験の開始だよ!」
その言葉と同時に投げられたのは
「まだユナがいるだろ!?」
クルトは慌てて駆け寄るとユナを掴み、そのまま爆発の影響が及ばないであろう場所まで逃げる。
今までで一番速く走れたのでは、と自画自賛したいほどであった。
ただ予想外なことにその薬をそのまま飲みこんでしまったスライム。
一度体を震わせるとそのまま意識を失ってしまったようだった。
「あれっ? 爆発しない?」
「ボクがそう何度も爆発させると思ったの?」
「あぁ、思ってたな」
「ふっふっふっ、もう何でも爆発させる爆発聖女は終わりだよ。これからはマスターとでも呼んでくれたらいいよ」
嬉しそうにない胸を張っているイルマ。
さすがに不思議に思ったクルトは彼女が持っていたもう一本の
すると……。
ドゴォォォォォォン!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
あまりにも予想通りの結果に、クルトは草むらを指差しながらイルマにジト目を向ける。
「あ、あれっ? おかしいなぁ。さっきはうまくいったのに不思議だなぁ? 初期不良かな?」
イルマは引きつった笑みを浮かべていた。
「やっぱり爆発聖女のままじゃないか!?」
「こ、こうなったら原因を徹底解明してやるんだから! きっとそのスライムにヒントがあるはず!」
イルマはゆっくりとした動きで意識を失っているスライムに近づいていく。
すると、そのタイミングで目を覚ましたスライムは危険な気配を察したのか、クルトの後ろへと隠れていた。
「待てー。私の実験道具―」
イルマはスライムを追いかけようとするので、クルトは首根っこを掴み、その動きを止める。
「こいつも嫌がってるだろ? さすがに魔物とはいえ実験道具にされるのは見ていられんぞ」
「えーっ。爆発しない秘密が――」
「スライムなしでも解明するのが錬金術師っぽいんじゃないか?」
クルトのその言葉にイルマは目を輝かせていた。
「錬金術師っぽい! そうだよね。無から有を生み出してなんぼだよね。よーし、がんばるぞー!」
なんとかイルマの気をそらすことに成功したようだった。
「……さっきの爆発で誰かとばされてなかった?」
ユナが空を指差して言ってくる。
「いや、気のせいじゃないか?」
「そうかなぁ? なんだか悲鳴のようなものが聞こえた気がしたけど……」
最後まで腑に落ちない様子のユナだった。
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