豊穣の聖女

 メリアを引き連れて俺たちは再びユナの仕事探しを始めるのだった。

 本来なら教会への対策をしないといけないところなのだが、勇者を吹き飛ばした今、すぐに動いてくると言うことはないだろう。


 その分、次に動いてきたときにはかなりの勢力を引き連れてくるはず。


 そうなると優先すべきはユナの仕事になりそうだった。



「ここの畑は荒れてますね……」



 メリアは畑を見た瞬間に目を潜ませていた。



「前までは作物を作ったとしても大半が税で取られて、あまり積極的に作ろうとしているものがいなかったからな。設備に力を入れるような領主でもなかったし」



 メリアは何を思ったのか畑に手をつき突然魔力を込め出していた。

 白く輝くメリア。



「何をしているんだ?」

「畑に栄養を与えているのですよ。私にできる聖魔法はこれだけですので」



 メリアの魔法が終わると畑の様子が……何も変わらなかった。



「何も起こらないな……」

「畑ですからね。結果がわかるには時間がかかってしまいますね」

「それもそうか。数ヶ月はかかるもんな」

「三日ほどですね」

「……すまん。聞き間違えたか? 三ヶ月だよな?」

「いえ、三日ですね」



 メリアの言葉にクルトは呆然と口が開いたままになっていた。



「……お前はどうして教会なんかにいたんだ?」

「それってどういうことですか?」

「絶対に畑の近くに居た方がメリアの力を発揮できただろ? なんでそうしなかったんだ?」

「えっと、聖女は教会にいるもので……だから……」

「固定概念に縛られているからか?」



 確かにゲームでは聖女は一括りにされていた。

 しかし、それぞれに個性がある以上、絶対に向き不向きはある。



「メリアはどうだ? もしできるならこれからも畑に聖魔法を使う仕事を任せたいのだが?」

「……調査の間なら構いませんよ」

「……個性か」



 ユナが考え込んでいる様子だった。



「私は何が好きだろう……?」

「それを探すために色々と試してみたらいいんじゃないか?」

「そうだね。よし、私も畑を手伝ってくるね」



 ユナが嬉しそうに畑で働くカミルに話しかけていた。

 そして、クワを受け取ると畑へと向かい、そして、そのまま顔から突っ込んでいた。



「お、おい、大丈夫か!?」

「え、えへへっ、ちょっとだけ失敗だね」



 ちょっとどころか何もうまくいっていない。

 でも、ユナは楽しそうに笑っていた。

 それからしばらく畑の手伝いをしていた。

ただ、正直邪魔になっているようで最終的には畑も何もないところでクワを振ってるだけになっていた。



◇◇◇



「働くって難しいね」

「確かにな。勇者って何の仕事ができるんだろうな」



 実際にゲームで攻略した後の勇者はどういうところで働いているのか。そういったものが書かれているものは少ない。

 幸せに過ごしているとだけ書かれているものがほとんどである。


 本当に幸せに暮らせているのかどうかはわからない。



――できることなさそうだよな。



 ユナを見ているとなおのことそう思えてくる。



「……仕方ないからレベル上げをするか?」

「で、でも、私は魔物を倒せなくて……」

「それは一人で無理やり行こうとするからだ。俺たち四人で行けばきっと大丈夫だ」

「……四人?」



 ユナは不思議そうにクルトの顔を見ていた。



「俺とユナ、イルマとメリアで四人だろ?」

「えっ、私も行くのですか?」

「ボクとしては研究をしていたいな」



 反対意見がちらほらと出てくる。

 ただ、この世界がゲームを元にされている以上、レベルは上げておいて損はない。


 それに適正な人数でパーティーを組めば経験値は分散されるものの魔物に倒されて全滅する可能性が減る。

 安全にいけるのならそれに越したことはない。



「魔物の素材があったほうが研究は捗らないか?」

「そ、それもそうだね」

「聖女としての力を強めるなら魔物討伐の経験を積んで置いた方がよくないか? それに困っている人を助けるのも聖女の役目じゃないのか?」

「そ、そうですね。私にできることがあるなら協力します」



 こうしてクルトたちは周囲に魔物がいないか調査しながらユナのレベル上げに励むこととなった。



――レベルが上がって少しでも自身がついてくれるといいけど……。

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