聖女の悩み

 珍しく聖魔法を使ってくれたイルマ。

 その甲斐もあって、爆発に巻き込まれながらもメリアは傷一つなく意識を取り戻していた。



「あれっ、ここは?」

「大丈夫か。よかった、目が覚めてくれて……」



 自分は爆発に巻き込まれて……、と記憶が混濁するメリア。



「そ、そうです。た、確かイルマがいて……。も、もしかして夢でしたか……」



 メリアはホッとため息を吐く。

 するとその瞬間にイルマが顔を覗かせる。



「久しぶりに使ったけどちゃんと効いて良かったね」

「ひっ!? い、イルマ!? じ、じゃあ私は……」



 自分の体を必死に触るメリア。

 服をめくり挙げかなり必死になっている様子で、側にいたクルトは慌てて顔を背けていた。



「あれっ? 爆発しない?」

「使ったのは回復魔法だからな。それよりも早く服を着てくれ……」

「あっ……」



 メリアは顔を染めて慌てて服を着直す。



「それでイルマ。こいつとはどういう関係なんだ?」



 メリアがイルマのことを知っていそうなので彼女に確認をする。



「知らないよ?」

「なんでですか!? 教会で一緒に働いていたじゃないですか!?」

「教会……というと聖女なのか?」

「はいっ! あっ、いえ、ここの領主様は怪しいから内緒でした。た、ただの人です」

「いやいや、いまさら隠せるわけないだろ?」



 あからさますぎて思わず苦笑してしまう。



「……こほんっ。改めて、私はメリア。聖女でございます」

「やっぱり聖女か。それで俺が怪しいってどういうことだ?」



 怪しいところなんて……、イルマの爆発以外はないはず。

 それでイルマは聖女見習いであることから教会には彼女のことは知られているはず。


 そこまで考えるとクルト自身が怪しいなんて事はないはずだった。



「えっと、私もそこまでは……。でも領主様が魔族と繋がっているから調査してくれ、と神官長が仰いまして……」

「神官長の言うことは信用できないよ? ボクにも錬金術の才能はないとか言ってたし」



――いや、それは事実だろ!?



 思ったことは口にはしなかった。



「とにかく ここを調べに来たということでいいんだな?」

「そうなります。でも、 助かったのは私だけですか?」

「というと?」

「他にも勇者様たちがいらっしゃったのですが……」

「勇者……か 。ユナのことか?」



 クルトたちの視線がユナに集まる。



「えっ、私?」

「お前以外にこの領地に勇者はいないだろ?」

「確かにそれはそうだけど……」



 なんだかユナは不服そうだった。

 実際に勇者としての実力があまりない状態で持ち上げられるのは嬉しくないのかもしれない。



「えっと、あなたではなくて別の勇者様なのですよ」

「他にも勇者が来てたのか?」



 さすがに勇者相手にイルマの爆発は効かないだろう。

 そして勇者が教会の命に従っているというのなら 少しピンチかもしれない。



「この領地に来るまでは一緒だったんですけど、いつのまにかいなくなってしまったんです」

「それってもしかして……」



 イルマが爆発を起こした際に何か声が聞こえた気がする。

  あの声の主が勇者だった可能性は大いにあるだろう。



 ただそうなると勇者はイルマの爆発結界にまともに飲み込まれたことになる。

 いくら威力が低くても永続的に爆発するあの結界の前では勇者のHPもひとたまりもないだろう。



「きっとそんなやつはいなかったんだ」

「確かに勇者というよりは 盗賊とかが似合いそうなお方たちでしたが……、いえ何でもありません。 神官長が勇者様だと言ったのですから勇者様なのです」



 何やら思うところがあるらしい。



「何があったんだ? 俺でよければ話を聞くぞ?」

「実は……」



 ここへ来る道中で何度も襲われかけたことを話してくるメリア。

 さすがに勇者にあるまじき行動である。


 そんな相手を許容していては教会の権威も落ちると思うのだが――。



「そうでもないのですよ。やっぱり実力がある人たちですから」



 力を求められる勇者、やはり実力主義の世界であった。

 それは 逆に力さえあれば何をしてもいいと言っていることに他ならない。


  でも本当にそれでいいのだろうか?



「勇者ってそういうものじゃないと思うんだけど……」



  見習い勇者であるユナが不満げにつぶやく。



「うんうん、そうだよね。勇者は危険をぶっ飛ばすからこそ勇者だよね」



 イルマのそれはただ相手を爆破したいと言っているようにしか聞こえなかったが。



「とにかく考えを相手に委ねるのは良くないぞ。自分で考え自分で何をするのが正しいか、 それをまず考えるべきだろう。それでお前は何をしたいんだ? 教会の命に従ってこの領地を滅ぼすつもりか?」



 メリアの真意を探るために鋭い視線を向けながら言う。

 するとメリアは悩みながらも答える。



「私はただ緑に囲まれて過ごせたら良かったんです……。でも、聖魔法が使えるからそんな自由はなくて……」

「それならこの領地に来ないか? イルマを見てもらったらわかるが、結構好き勝手なことをしてるぞ?」

「ボクはクルトが許可してくれたからしてるだけだよ」

「まあ、すぐに信用しろとは言わない。どちらにしても教会の仕事でこの領地を調べるんだろ? その間に考えてくれたらいい」

「わかり……ました」



 ただメリアの心はかなり動かされていたのだった――。

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