爆破の結界
クルトは領地の手助けに来てくれる人に心当たりはないか、イルマを尋ねていた。
「うーん、ボクは元々知り合いが少ないからね」
あっさり希望を打ち砕かれてしまう。
「そもそもボクも教会の中にしか知り合いはいないよ? あの腐った教会が襲ってくるならボクは誰も呼べないかな……」
「それもそうか。すまなかったな」
「全然構わないよ。それよりもこれから錬金の実験をするんだけど、見に来る?」
「いや、そんな時間はないのだが? さっきも言ったが、これから勇者や聖女が襲ってくるからその対策を――」
「ちょっと錬金と聖魔法を上手く組み合わせて、領地に侵攻不可の結界を張ろうと思ったんだ。王都とかに張ってある魔族の進行を防ぐ結界の強化版ってところかな」
――いや、あれって錬金術ではなくて聖魔法によって作られていたはずだが?
そのせいで聖女の大多数は常に教会で祈って結界の維持に努めているのだ。
「もしかして、祈りなしで街に結界が張れるのか!?」
「そうだよ。実験する価値はあるでしょ?」
「そうだな。成功するなら試したいな」
「だから行くよ! ほらほら、はやくはやく!」
イルマに引っ張られながら街の外へと向かっていく。
◇◇◇
誰もいない領地の端へとやってきたクルトたち。
「こんなに離れる必要があったのか? 結界なら別に街中で発動させてもよかったんじゃないか?」
「失敗したら爆発するけど大丈夫?」
「えっ、爆発するの!?」
ユナが驚きの声を上げる。
「まぁ、爆発は今更だよな? 毎朝爆発してるじゃないか?」
「朝のあれって爆発だったの!? なにか目覚ましで鳴らしてるんだと思ったよ!?」
「日が昇るまで実験禁止にされちゃったからね。酷いと思わない?」
「えっと、あはははっ……」
ユナは返答に困り苦笑を浮かべていた。
「だから暴発聖女なんて言われるんだぞ」
「それは言われたことないよ!?」
「暴発の称号が取れるかどうか、楽しみだな」
「ふっふっふっ、そんな冗談を言えるのも今のうちだからね」
不敵な笑みを浮かべるイルマ。
「まぁ、ここならわざわざ人がくることもないだろうな」
今居る場所は領地の端の街道から外れた場所である。
こんなところにわざわざ来るのは盗賊たちくらいだった。
もし爆発に巻き込まれてくれるのなら、その方が助かるまでもあった。
イルマが地面に文字を書き始める。
そして、いくつかの素材を並べ終えたあと手を挙げながら言う。
「それじゃあ、いっくよー♪ えいっ!」
イルマのかけ声と共に地面に書かれた文字が白く光り出す。
聖魔法を使っているだった。
「えっと、あとはこの結界を広げるために……っと」
イルマが更なる魔力を与えた瞬間に
ドゴォォォォォォン!!
ドゴォォォォォォン!!
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
ドゴォォォォォォン!!
ドゴォォォォォォン!!
結界を設置しようと思っていた場所が爆破される。
それだけならいつもと同じ結果にすぎないのだが、今回はなぜか一度では終わらずにひたすら爆破し続けていた。
さしずめ爆発の壁、といったところだろう。
「こういうタイプの結界は初めて見たな」
「……わざと言ってるでしょ? もちろん失敗に決まってるよ」
「そ、そうだよね? 本当にこういう結界なのかと思ったよ……」
ユナは本当に信じかけていたようだった。
疑うという言葉を覚えて欲しい。
「それで、この爆発はいつ止むんだ?」
「えっと、止まない……かな?」
「はぁっ!?」
「ウソウソ、ちゃんと止ませる方法を考えるよ。だからちょっと待って。えっと、あっ、そ、そうだ。爆発物だけを抽出すれば――」
ドゴォォォォォォン!!
余計なことをしたイルマは更に爆発を引き起こす。
ただそのおかげで魔法陣の文字が消えたのか、爆発の結界は消えていた。
「ほらね、ボクの計算に間違いはないんだよ。あいたっ」
「間違いしかなかっただろ。全く……」
ただ、あらかじめ街を覆うように爆破結界を張っておいて敵が来たら爆破。
襲撃が止んだら文字ごと吹き飛ばす、というやり方をすれば襲撃を回避できるかもしれない、と想像する。
「よし、今日中に街を覆うように結界を張るぞ」
「ちょ、ちょっと待って。今修正の仕方を考えるから」
「それはまた今度で良い。今は襲撃者の対処が先だ」
「……あの、その襲撃者の人ってあの人ですか?」
ユナが指差した先には一人の少女が倒れていた。
「お、おい、爆破に巻き込んでしまっているじゃないか。早く治せ」
「ならボクのお手製の回復薬を――」
「体の中から爆破してとどめを刺してどうするんだ!」
「回復させるんだよ!? 全くもう、仕方ないなぁ……」
イルマは珍しくクルトの言うことを聞き、素直に少女を回復していた。
◇◇◇
少しだけ時間を遡る。
意気揚々と領地を滅ぼすことだけを考えていた勇者たち。
メリアとしてはまず調査だったので堂々と領地に入って調べようと思っていたのだが、勇者たちは「そんなことをして獲物が逃げたらどうするんだ」と敢えて道を逸れていた。
「狩りは浮いた獲物を一匹ずつ殺すところから始めるんだ」
「か、狩りじゃないですよ!?」
勇者たちとはまるで考えが合わない。
最初からこの領地の者を悪と決めつけて行動しているかのようだった。
「ひっひっひっ、一人とは行かないが弱そうな三人が来たじゃないか」
――あっ、あれは……イルマ? どうしてここに?
勇者たちが口を吊り上げて笑みを浮かべている最中、メリアはまるで違うことを考えていた。
あの場にイルマがいて、その実験に付き合うためにこの地へと来たのなら……。
「ば、爆発!?」
そのことに気づいたメリアは慌てて後ろへと逃げて行く。
ただ勇者たちは逆にイルマたちへと向かって行き、そして――。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
爆発に巻き込まれて、誰にも気づかれることなく吹き飛ばされていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます