【聞き込み1日目報告】



※ 8月18日13時10分ごろ ※




 空調の聞いた、神崎探偵事務所の応接室。

 窓から、空を覆う雲に乱反射し、白色の強くなった光が差し込んでいる。ブラインドで光の入りを調節してあるぶん、外よりも眩しさは少ない。


 それでも、部屋の中には白い光が溢れている。

 そんな事務所のソファーに座る悠里に、聞き込みから急ぎ戻ったあかねと琥珀は、加々美から聞いた話を報告した。


「三井那可子がストーカー被害を受けていた?」


 悠里の反応に、大きく頷くあかね。


「はい、加々美柊馬さんが話してくれたんです」


 話を聞いた悠里は、その言葉に、ふむと鼻を鳴らし、右手の指先を顎にあてて考え込む。


「警察には、面倒だから言わなかったといってました」


 琥珀が更に報告を添えた。


「それが嘘である可能性は?」


 正面のソファーに座る琥珀に、視線を向けて問う悠里。


「僕なりに、加々美さんの様子を見ていましたが、嘘ではないように思いました」


 琥珀は悠里を真っ直ぐ見据えてそう返す。

 その言葉に驚いたのは、琥珀の隣に座っていたあかねだった。


「え?! なんで? あいつ、いい加減そうじゃない。那可子さんとも遊びだって言うくらいだし」


 あかねからすれば、遊びで女と関係を――しかも、婚約者の居る――もつ男など、いい加減な人間にしか見えない。でたらめな嘘くらいつきそうなものだ。

 けれど、琥珀は加々美が嘘をついていないと、確信を持っている様子だ。


「加々美さんの仕草を見てると、嘘をついてるようには見えなかったんです」


「仕草?」


 あの男の仕草に、一体何があったのか。あかねには皆目見当もつかず、子首を傾げるしかできない。


「人は、嘘をついた時、無意識に顔を触ったり、体を動かすということもあります。けれど、加々美さんには、そのどちらもありませんでした」


 と、説明をする琥珀。

 それに納得したように、悠里が「ふむ、なるほど」と頷いた。

 あかねは加々美の様子を思い返す。確かに、彼は堂々としていた。


「逆に、その仕草が該当したのが、佐藤真吾さんでした」


 琥珀の言葉に、あかねは、「あ……」と気がつく。


「確かになんか落ち着かない様子だったような……」


「はい。嘘をついている人がとる行動を、佐藤さんはなさっていました。もちろん、演技の可能性もありますが……。

 けれど、演技をするという事は、何か隠したいことがある……とも考えられます」


 そう言われればそうだと、納得せざるおえない。

 悠里もその説明に頷いている。


「つまり、佐藤真吾が何かを隠している可能性。あるいは、嘘をついている可能性がある……と」


「はい」


「さらに、三井那可子がストーカー被害者であったが、何らかの意図で、この話が警察には伝わっていない」


「ですね……」


「この件に関しては、紅月に情報を渡した方が良さそうだな」


 この新たな情報は、新たな謎ともいえる。

 警察にも報告した方が、良いだろう。

 那可子が転落死した事件と関わりがある可能性があるのだから。

 悠里の判断にあかねも納得できる。


「明日は、元彼の鈴本太治さんを尋ねます。ストーカー被害の件を何か知らないか聞いてみましょう」


「ああ、頼んだ。あかねも、行けるか?」


 明日の予定が決まった。


「もちろんです!」


 そう言って、あかねは力強く頷いた。





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