【加々美柊馬】( 1 )



※ 8月18日12時30分ごろ ※




 次に、あかねと琥珀がやってたのは、加々美柊馬のマンションだ。

 彼が今日、在宅勤務で自宅にいる事は、事前に調査済み。

 アポイントメント無しの突然の訪問。会って貰えない可能性もあったが、意外。

 すんなりと家に入れて貰えた。玄関先ではあるけれど。

 それでも、空調のおかげで涼やかだ。外は変わらず曇りだが蒸し暑い。


「で、探偵助手さんが何の用?」


 加々美は、飄々とした様子で、訪問の意図を問う。


「三井那可子さんとの関係について聞かせてください」


「あかねさん………。もう少し、言い方考えてください………」


 直球勝負のあかねの隣で、琥珀が頭を抱えているが、無視。

 そんな様子を見た加々美は思わず苦笑。


「じゃじゃ馬な相棒で苦労してんな、イケメン君よ」


「あはは……。これも仕事ですので………」


 笑う加々美と困った顔の琥珀を見て、あかねはイラつく。

 誰がじゃじゃ馬だと、ツッコミたいが、それよりも重要なのは事件の事だ。


「そんな話はいいですから、質問に答えてください」


 そんなあかねのあかねの様子に、頭を抱える琥珀と、肩を竦める柊馬。


「それ話したら、あの社長に報告すんの? 那可子の婚約者の佐藤って坊ちゃんにさ。それだと困るんだよね。慰謝料請求されたらたまんねぇし」


 婚約者のいる女性と、不貞行為を行ったにも関わらず、開き直る加々美の態度に、あかねはカチンときた。


「はぁ? 何その言いぐ……」

 と、言いかけたあかねの口を、琥珀が手で塞ぐ。


「はい、あかねさんはステイしてくださいねー」


 優しい言い方だが、言葉は酷い。あかねは、口を塞ぐ手を振り払った。


「ステイって、私は犬じゃない!」


 そう琥珀に食ってかかると、横から加々美が口を挟む。


「じゃじゃ馬だしな」


「ああ、なるほどです」


 加々美と琥珀のやり取りに、ますます腹が立ってくる。


「じゃじゃ馬って……! 琥珀くんも納得すんな!!」


 怒りの声をあげるあかねの肩を、ポンポンと軽く叩く琥珀。


 「ともかく、落ち着いくださいね」


 と、笑顔を向けてくる。のだが、優しげな声に少し強めの圧力を感じた。

 さすがのあかねも、怒りの鉾を納めるしかない。

 そして、あかねを抑えた琥珀は、加々美に向き直った。


「依頼者は、佐藤さんではありません。今、話された内容が、僕たちの口から佐藤さんに渡ることはありませんのでご安心を。守秘義務がありますから」


 琥珀の言葉に嘘はない。この仕事に慣れているからこその言い回しでもある。そこが、経験の差というものだ。悔しい話なのだが。


「佐藤って坊ちゃんから依頼された事ある?って聞いても、答えてくんないよね」


「守秘義務がありますから」


 食い下がる加々美を、琥珀は笑顔で躱す。

 加々美はつまらなそうな顔をしたが、「ふーん。まー、いっか」と諦めた様子だ。腹を立ててはいないようで、あかね達の質問に答えてくれた。


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