――聞き込み調査――
【佐藤真吾】( 1 )
※ 8月18日11時40分 ※
今日は珍しく曇り空。暑さは和らいだものの、湿気が熱を帯び、じんわりと汗がにじむ。
それに加え、太陽光は雲によって乱反射し、日差しがなくともひどく眩しい。
そんな中、あかねは琥珀と共に、佐藤真吾が社長を務める会社へと向かった。
昨日、悠里がアポイントメントを取っていたおかげで、受付で少し話をしただけで応接室に通される。
応接室に入ると、伏し目がちな顔でソファーに座る佐藤がいた。
「あの、この度は……こんな事になってしまって……」
「お気遣いありがとうございます……。琥珀さん……と……?」
琥珀の気遣いに、佐藤は感謝の言葉を返すと、隣にいるあかねに視線を向ける。
「こちらは、もう1人の助手の紅月です」
その視線の意図を察し、琥珀もう1人の探偵助手である紅月あかねを紹介した。
「紅月あかねです」
「紅月……」
すると、佐藤は紅月という名前に反応する。
「紅月秋造という刑事にお会いになりました?」
あかねが問うと、「はい……」と佐藤は頷いた。
「その刑事は私の父です。父が何か嫌な事を?」
「いえ、嫌な事とかは……紳士的な対応をして頂きましたよ」
父が佐藤に何か失礼な事でもしたのではないかと、あかねは心中でヒヤリとした。しかし、彼の様子をみるに、問題はなさそうだ。
立ち話もなんだと、佐藤に促されたので、あかねは相対して設置されたソファーに、琥珀と並んで腰を下ろした。
「依頼の件ですよね。わざわざ御足労頂きましてありがとうございます」
2人が座ると、佐藤が本題を切り出す。
「いえ、佐藤さんも大変でしょう……」
琥珀が、再び気遣いの言葉をかけると、佐藤は困った顔で苦笑した。
「那可子が転落したのは事故ではない可能性があると、刑事さんに色々聞かれましたよ」
と、話しをしていると、みすゞがトレイを手に、応接室へ入ってくる。
あかねと琥珀の前に、木のコースターに乗った冷茶グラスを置いた。
氷に冷やされた緑茶が、カラリと鳴る。
「粗茶ですが……」
「ありがとうございます。いただきます」
みすゞの言葉に、琥珀は頭をさげて礼をする。あかねもならって頭を下げ、「いただきます」の言葉を告げた。
出された冷茶を一口含み、琥珀は再びみすゞに言葉をかける。
「三井さん、この度は……」
と言いかけた所に、みすゞは被せるように口を開く。
「お悔やみの言葉は結構ですよ。私、あの子が死んで、せいせいしてますから」
つんとした表情で、そう言うと、みすゞは佐藤の隣に座り、手にしていたトレイを膝の上に置いた。
「三井くん……」
佐藤が窘めるような視線を送るが、みすゞは全く気に指していないようだ。
「浮気、黒だったんでしょう? あんな遅い時間に、神社に行くなんて。しかも、社長との約束を断って行ってるなんて、きっと浮気相手と密会しようとしたんだわ」
みすゞから那可子に対しての感情は、怒りしかない様子。随分と、那可子を嫌っているようで。
「でも、僕の家に近い場所で、浮気相手と密会なんて……」
那可子が死んだ場所は、佐藤の住むマンションからほど近い場所だ。浮気相手と密会するには適当な場所ではないなと、あかねも思う。
「社長が優しすぎるから、付け上がったに決まってます! だから、天罰が下ったのよ!」
みすゞの様子に、あかねはたじろいでしまった。それは、琥珀も佐藤も同じようで。
2人とも、困ったような顔で固まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます