4.故郷と共に仲良し夫婦

 中央に寄るほど擦れが強く色が剥がれている焦茶色の階段を降りていく。

 下から届く料理の音が徐々に大きくなるのがなんだか面白く、ついゆっくりと歩みを進めてしまう。


「ターニャさん。おはようございます」

「レイさんおはよう!ゆっくり眠れたかい?」

「はい。とても快適でした」

「それは良かった!いま朝食を用意するからちょっと待ておくれ!」

「はい。よろしくお願い致します」


 商業ギルドで宿を紹介してもらう際につけた条件は“清潔であること”、”堅苦しくないところ”、“ご飯が美味しいところ”の3つ。

 少し図々しいかと思ったが、快くいい宿を紹介してくれたヴェルーノさんには感謝しかない。

 その際、サリーさんには高級宿を勧められ、クルトさんには“素材採取について語り合いましょう”と食事に誘われたがどちらも断った。


 ヴェルーノさんが紹介してくれた“砦のくまさん邸”はこの街の宿屋の平均価格より少し高いぐらい。

 朝食付きなので非常に助かる。

 客室は2階と3階にあり、私が案内されたのは3階の角部屋。

 シャワーとトイレはどの部屋にも備え付けられており、便器もといソルデには水が流れる魔石が嵌め込まれていた。

 ベッドは少し硬かったが自分の布団を上に敷いて寝たので問題ない。


 1階は食堂兼酒場。

 朝は宿泊客のみ利用可能となっており落ち着いた雰囲気だが、夜は誰でも利用できるため賑やかになる。


 女将のターニャさんは笑顔が素敵な30代ほどの女性だ。

 細身の身体とは裏腹に活力に溢れた方で、赤色のポニーテールを揺らしながらテキパキと動く。

 アカライという地球には存在しない鳥の獣人である彼女は随分と砕けた話し方をするが、明るく優しい性格によりお客様からの評判がいいそうだ。

 それに、この宿を利用する方のほとんどが冒険者だそうで、口調に驚かれることはあるが、嫌悪などはほとんど向けられないらしい。

 まぁ、ターニャさんに嫌味を言おうものならキッチンから色々と飛んできそうではある。

 その様子を見てみたいと思っていることは内緒だ。

 ちなみにターニャさんはこの宿屋の命名者でもある。


「レイさんお待たせ!」

「ありがとうございま…す…」


 ターニャさんが運んできた朝食から届く香りに驚いた。


「これは…」

「どうしたんだい?嫌いなものでも入ってたかい?」

「あの…このスープの香りは?」

「あぁ、それかい。ポワの実を潰すと出てくる液体を元に作ってるよ。珍しいものではないだろう?」

「な!」


(なんだ…と…)


「あの!それはどちらで購入できますか!?」

「急にどうしたんだい!?」


 衝撃の事実を知り、思わず立ち上がってターニャさんに詰め寄ってしまった。

 奥のキッチンから鋭い視線を飛ばすのは料理人兼ターニャさんの旦那様であるゲイブレットさん。

 2人並んだ姿を一目見ただけで愛妻家だと分かるほどに奥様を愛している。

 昨日お会いした際は朗らかに微笑む優しい熊さんだったのに、今は視線で人が殺せそうだ。

 ちなみに見て分かる熊さん要素は耳と大きな体躯しかないと付け加えておこう。

 何ももこもこ熊さんがお料理をしているわけではないのだ。


 心からの詫びを込め、キッチンへ向かい深く一礼をした。


「ははは!まずはあっちに詫びかい?」

「失礼致しました。殺意を鎮める方を優先してしまいました」

「ふふ、その判断は正解だね」

「美しい方の前で血飛沫を上げるわけにはまいりませんからね。おっと、事実を語ったまでです。旦那様のそばでないと輝かないことは充分承知しております」

「はははは!」


 獣人族は耳がいい上に、キッチンは割とすぐそこにあるのでこちらの声が届いているはずだ。

 その証拠に前半の言葉には殺気を向けられ、後半の言葉には強い頷きと微笑みを返された。

 手に持っている包丁の柄を強く握り締めたのはまな板の上の魚を捌く為である。

 決して奥様に手を出せばどうなるか今から実演しようとしているわけではない。


(仲良しさんは仲良しさんのままでいてほしい。そもそもそっち方面で見たことがないので安心してほしい)


 なんだかんだ奥様は旦那様の重い愛を笑いながら全て受け取っているのだ。

 互いが互いを大好きな仲良し夫婦は是非このままでいてほしい。


「ゲイブのあれを受けて微笑んでられるレイさんはなかなかに強かなんだねぇ」

「ふふふ。誰が為のあれか理解していれば怖くありませんよぉ」

「そうかい。お客が減らずに済みそうで安心したよ!」

「ふふふ」

「で?このスープの話だったね」

「はい。こちらに使用しているポワの実を販売しているところをお伺いしたいのです」

「調味料を扱ってる店ならどこにでも置いてるよ。うちは使う量が多いから届けてもらってるけど、その人は普段は露店をやってるね」

「露店はどこで開かれておりますか?」

「冒険者ギルドのすぐ横の道を真っ直ぐ進めばすぐに分かるよ」

「そうでしたか。教えてくださってありがとうございます」


 今度は感謝を込めてのペコリだ。


「ふふ、面白い人だねぇ。スープは変えなくていいんだね?」

「はい。もちろんです。これがいいのです」

「そうかい。それなら良かったよ」

「はい。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。大切にいただきます」

「ああ。そうしてくれると嬉しいねぇ。ゆっくり食べておくれ」

「はい」


 明るい笑顔をこちらに向けたのち、キッチンへと向かうターニャさんを横目に入れながら椅子に座り直した。

 木製テーブルに置かれたスープは少し冷めてしまったが、未だに知った香りが届く。

 鼻腔をくすぐるそれに涙が零れそうになる。

 ゆっくりとスプーンで掬い、口に含むと懐かしい味が口内に広がった。


「醤油だ…」


 少し塩味が強いのは冒険者に合わせた結果だろう。

 恋焦がれた味を口に含む度に零れようとする涙を必死に抑え込みながらゆっくりと食事を進めた。

 何が悲しいってポワの実は家の調味料棚でも島の森でも見たことがあるということ…


(名前かすりもしてないじゃないか…しかも実だとは思わないよ…)




 そんな塩辛い朝のひと時を終え、宿の外に出ると既に人が行き交い街は活動を始めていた。

 今日は午前中に用事を済ませ、午後は露店があるという場所へ行く予定だ。


 まずは札を返しに街門へ足を運んだが返却するだけなのですぐに用事は終了。


 次に向かうは図書館。

 場所はターニャさんに聞いた。

 図書館と聞くとすごく大きな建物が思い浮かぶが、この街の図書館は想像よりも小さい。

 白っぽい石で造られた2階建ての建物で商業ギルドの方が大きいくらいだ。


 入館料を支払い中へ入ると特有の紙とインクのにおいが鼻を通り、島を出てから数日しか経っていないにも関わらず、あの家の書庫が懐かしく感じた。

 受付の人によると貸出はしておらずここで読むしかないが、メモを取ったり書き写すのは問題ないそうだ。

 家の書庫に置かれていたような便利な魔道具はなく、本を見つけるには自分で探すか受付に聞くか。


 あれほどのことを成し遂げた師匠の名が歴史に残るのは必然と思いその本を探しに来た。

 師匠についてどのように記されているのか気になるというのもあるが、もしかしたら共にいたという友人のことも載っているのではないかと期待している。

 ついでに自分がこの世界に来た理由についても何か情報があればと思っているが、それはあくまでついでだ。

  

 というわけで受付の人に“ルークス・フェン・ヴェリタティス”について書かれた本がないか尋ねたが1冊もないとのこと。

 “誰だそれは?”という顔をされた…あれ?なぜだ?

 ついでに龍人族の国とエルフの国についても尋ねてみたところ、どちらも存在しているそうなので場所を教えてもらった。

 ただ、どちらの国にも人族を嫌う者が多く、行くのは勧めないとのこと。


 他に本が置かれている場所といえば本屋さん。

 あとは露店や雑貨屋に掘り出し物があるのを期待するか…


 図書館を後にし本屋へと足を運んだが、そこにも師匠の情報が載った書物は置かれておらず肩を落とす結果となる。

 だが、精霊について記された本など、気になる書物をいくつか見つけたのでそれらを購入した。


(あとは他の街を訪ねるか、人に聞くかだなぁ………とりあえずポワの実を買おう)




 そうして露店が並ぶ通り─通称、露店通り─へとやって来た。

 道の両脇にズラリと並ぶお店の品物は多種多彩で見るだけでも楽しめそうだ。

 いろいろと見て回りたいところだが、まずは醤油の芳ばしい香りが漂ってくる方へと向かう。


 においを辿った先では串に刺した肉を網の上で焼いていた。

 昼時を過ぎたからか店先に並ぶ人はなく、これ幸いと店主のおやじさんに声をかける。


「こんにちは。この香りはポワの実でしょうか?」

「お?らっしゃい!タレにポワの実を使ってるな!珍しいもんではないが、うちのタレは格別だぜぇ?」


 珍しいものではない…その言葉に胸が高鳴るが、その騒ぐ己の心よりも気になるのは店主の笑顔。

 悪人かと見間違う程のニヤリ顔はガタイのいい身体に似合っているが、客商売には向いていないと思う。


「そちらは魔物の肉でしょうか?」

「ああ。フラムバードっつぅ魔物だな。うちは焼き鳥屋なんだ」


(焼き鳥いいね!)


「それ1本ください!」

「あいよ!鉄貨6枚だ!」

「はい、ありがとうございます」


 お金と引き換えに受け取った焼き鳥からは芳しい香りがこれでもかと届き、早く食べてほしそうだ。

 いや、普通に私が食べたいだけなのだけども…


「これはこの場で食べてもよろしいのでしょうか?」


 おやじさんに尋ねながらもキョロキョロと辺りを見てみる。


「あぁ、店や人に迷惑かけなきゃ大丈夫だ」


 店主が言うのなら間違いないだろう。

 それに確かに店先の少し横で何か食べている人がチラホラといる。

 全くの無問題のようなので手にしている焼き鳥を堪能することにした。


「では、いただきます」


 挨拶ののち、少し大きめの肉を口に含むと途端に広がるのは懐かしい味。

 塩味が強い醤油の味でわずかに甘味が顔を覗かせる。

 フラムバードは初めて食べるがタレとの相性が良くとても美味しい。

 島で食べていたウィリドバードに比べると少し筋張ってはいるが、これはこれで噛みごたえがあり美味しいので後で狩りに行こうと決めた。


「はは、兄ちゃん、いい食べっぷりだな」


 口いっぱいに肉が入っているのでおやじさんの声には笑顔で頷きを返すことしかできなかった。

 最初に声をかけたときは一瞬驚きを見せたが、それ以降は特段違和感が見られない。

 驚いた理由を聞きたいところだが、それは後にしよう。


「ごちそうさまでした!これはあと何本購入可能でしょうか?」

「すぐ出せるのはタレと塩10本ずつだな」

「塩もあるのですね!それでは、10本ずつください!」


 収納にしまっていつでも食べられるようにしておくのだ。


「あいよ!気に入ってくれて嬉しいねぇ」

「すごく美味しかったです!あ、このポワの実を取り扱っている露店がどこにあるかご存じでしょうか?」

「ん?ここだ」

「え?」


 おやじさんが親指で指したのはお隣さんで、そこには柔らかな微笑みを持つ細身の女性が立っている。


「ふふ、うちの旦那の焼き鳥を美味しそうに食べてくれてありがとう」

「驚いただろ?」

「ええ。奥様美人ですね」

「おまっ!口説くなよ!?」

「口説いておりません。事実でしょう?」

「まぁ、確かにな」

「ふふ、2人ともありがとう」


 おやじさんの照れている姿は気持ち悪いが、奥様の笑顔は癒される。


「ポワの実が欲しくてこの通りに来たのですよ。すぐに見つかって良かったです」

「いらっしゃいませ。ポワの実は何にでも合う調味料となります。隣の美味しい焼き鳥にも使われていますよ?」

「ふふ、ええ、思わず買ってしまいたくなる香りが隣から漂ってきますねぇ。それではこの袋に入るだけお願いできますか?」


 そう応えながら収納から取り出した麻袋を楽しそうに笑う奥様へと渡す。


「はい。少々お待ちください」

「あ、ポワの実の味に似たものはございませんか?いえ、似てはいないのですが、こう…もったりとした茶色いような…もしかしたら白っぽいかもしれません」

「んー、ポワの仲間にリュワという木があるからその実がそうかもしれないわね。ちなみにこっちの実がそうね。ポワと同じく実の中に料理に使われるものが入っているわ」


──────────

【リュワの実】

 食用可

 品質:A


 リュワの木に成る実。

 実の中に入っている半固体のものには深いコクと旨味があるが塩味が強い。

 殻は苦味とえぐみがあるが食べても問題はない。

──────────


 家の調味料棚に並べられたものや森に生えている木に鑑定を使用する場合、名前のみが出るようにしていたため気がつかなかった。

 塩には“ソルト”と付くし、クルミは“クルミ”なので、ポワ=醤油だなんて誰もが思わないだろう。

 例え説明が出るように鑑定を使用したところで分かったかどうか…


(まぁ、今更嘆いても意味ないか。もう過去のことだしねぇ)


「それではそちらもください。他にも料理に使うものはありますか?」

「あとはこれとこれがそうね」

「では、そちらもお願いします」

「はい、かしこまりました」


(後で味を確かめてみよう)


 奥様は相変わらずの微笑みでテキパキと実を麻袋に詰め始めた。

 少しでも多く売るつもりなのだろう。

 スーパーでよく見かける詰め放題の現場を見ているようだ。

 伸びの悪いビニール袋に隙間なくみかんを詰める人とかに様子が似ている。

 まぁ、実なので潰れる心配がない為それでいい。


「なぁ、そんなに買ってどうすんだ?」

「え?料理に使用する他にあるのでしょうか?」

「自分でか?」

「ふふ、ええ。そうですね」

「そんななりで料理すんのか!?」

「見た目関係あります?」

「そうよ、ヴァン。料理するのに見た目は関係ないじゃない」

「いや、まぁ、そうなんだけどよ…想像できん」

「おやじさんには言われたくないですねぇ」

「ふふ、ほんとよねぇ?それよりこちら用意できましたよ。銅貨8枚です」

「はい、ありがとうございます。あの、ついでにお2人にお伺いしたいことがあるのですが…」

「なんだ?」

「あら、何かしら?」

「この街の門前に並んでからこれまでの間、常に多くの視線が突き刺さるのですが、私何か変でしょうか?」

「…お前それ本気で言ってるのか?」


 この2人ならば正直に答えてくれそうだと今まで気になっていたことを尋ねてみたのだが、おやじさんから向けられたのは冷めた目だ。


「そんなの格好良いからに決まっているじゃない」

「え?そんな理由ですか?」


(だからといってこうも視線が集まるものなのだろうか?というか鑑定を使用しているわけでもないのにジロジロと見るのは失礼なのでは?)


「この街は人が多く集まるから目を引くような男性をよく見かけるわ。ただその人たちは男らしいや逞しいといった格好良さなのよ」

「…?」

「あなたは朗らかで紳士的。見た目は“儚くも美しい”という言葉がぴったりね。だから珍しいのよ」

「あぁ、そんな感じだな」

「珍しい…」


(珍獣扱いか…なるほどね)


「けれど、商業ギルドのクルトさんもそのような感じではないですか?」

「あいつは確かに顔が整ってるが無愛想で近寄りづらいんだよ」

「視線を向けると睨まれそうで怖いのよね」


(なるほど。無愛想にしていればいいのか…)


「眉間に皺を寄せたところで何も変わらんぞ?」

「ふふ、纏う雰囲気がそもそも違うのよ」


 渾身の無愛想は空振りに終わった…


「っつぅか、この街に来る前はどうだったんだよ?」

「ここを訪れる前はずっと独りだったので…」

「お前……っ…焼き鳥食うか?」


(2人から同情の目を向けられている…さぞ寂しい人間だと思われた?)


 ずっとと言っても1年程なのだが…言葉を間違えたようだ。

 なんと説明すればいいのか分からず誤解を解けないまま焼き鳥を受け取った。

 私が注文した20本の内半分は既に焼き上がっており火が通らぬ位置に置かれている。

 他は未だ製作中。

 つまり、今受け取ったこの1本は元より売るつもりのない物のようだが、普通に美味しい。


(さっき食べたのより少し硬いかなぐらいなのになぁ)


 焼きすぎたと判断して売り物から外したのだろう。

 細部までこだわる素晴らしい焼き鳥屋さんのようだ。

 本来慰めの為に渡すには不向きではあるのだろうが、私は普通に嬉しい。


「美味そうに食うなぁ」

「嬉しいことねぇ」


(美味しいものを食べてるからね!)


 声を返せない理由は分かるだろう?

 うんうんと頷けばうんうんと返されたので問題ないだろう。


「ちなみになのですが、人をジロジロ見るのは失礼に当たりますか?」

「くくっ、ああ。俺は失礼だと思うね」

「そうねぇ。私もそう思うわ」

「そうでしたか。それを知れて良かったです。ですがそうなると奥様をジロジロと見られなくなってしまいますねぇ」

「見る必要はないからな?俺か俺でも見てろ」

「ちょっとあなた面白いわね。ふふふ」

「ふふ、ポワの実か食べ終わった串でも見ていた方がマシですねぇ」

「え?お客様じゃなかったらぶん殴るとこだぜ」


 今は焼き鳥を焼くのに忙しくて焼き台のそばから離れられないのが難点だね。


(どんまい!)


 奥様は旦那様の言葉が面白かったのか未だに笑っている。

 楽しそうで何よりだ。

 それを見たおやじさんの顔は…あれだ…うん。


「ったく、よく口が回るお客様だぜ。ほらよ。旨い焼き鳥が出来上がったぜ」

「ふふ、ありがとうございます。代金はこちらで合っているでしょうか?」

「お?ああ、ちょうどだな」

「それならば良かったです。ではではここを去りましょうかねぇ。もう少し奥様の素敵な笑顔を見ていたいところですが、仕方ありません。焼き鳥の串で我慢しましょう」

「もうそこまでいくとすげぇわ。よく恥ずかしげもなく言えるな…」

「あなたも見習ったらどうかしら?ふふふ」

「俺がか?似合わんだろ」

「聞いてみなければ分からないわねぇ」

「…そうか……」


(あらあら、仲良しさんだこと)


 後で言ってみるかとか考えていそうだ。

 最愛は喜ぶだけだと理解していても、言葉にするのが恥ずかしいという気持ちが消えるわけではないものねぇ。

 奥様はもう言葉を贈られる気満々のようで既に嬉しそうだ。


(ま、頑張れ!)


「ふふ、今日はお2人に会えたのでここに来て正解でした。美味しい焼き鳥を食べられましたしねぇ。では、失礼致します」

「そうか…まぁ、また食いに来いよ」

「ふふ、またいらしてくださいね」

「ええ、ありがとうございました」


 そうして素敵なご夫婦と別れ露店通りを歩きながら考えるのは、今手に持っている荷物たちをどうしようかということ。

 収納にしまいたいところだが、さすがに街の人々がそれを使用していないことには気がついている。

 とりあえず一旦横道に逸れ、隠れて収納にしまった。

 そして家のクローゼットから拝借した斜めがけの鞄をひとつ取り出し肩にかける。

 クルトさんが言っていた“魔道バッグ”なるものを使用している冒険者を見かけたのでそれに習うことにしたのだ。

 自分の場合は魔道バッグを使っているフリだが、これならば問題ないだろうと足取り軽く露店通りへと戻る。

 朝立てた予定よりも時間に余裕ができたので露店通りを見た後は少し街を散策する予定だ!

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