19.胸に
目を閉じ身体の力を抜く…体内に意識を落とすように精神統一・・・
………………
………
……
…そして体内の魔力を巡らせる。
淀みなくさらさらと流れる魔力を細く細くゆっくりと身体の外へと伸ばしていく。
大気に溶け込もうとするものへ居場所はここだと諭すかのように繋ぎ止める。
糸のように細い魔力でゆっくり…ゆっくり…
駆け抜けるように直線を、踊るように曲線を、丁寧にそして優雅に…
複雑に重なり合う魔力の糸が淡い光を放ちながらいくつもの紋様を作り出す。
辺りを漂う魔力が興味を示した子供のようにこちらに近寄ってくるのを肌で感じながら指揮者のように手を動かし魔法陣を描いていく。
頬を伝う汗を拭う余裕はなく雫となって顎先から滴り落ちた。
僅かな歪みも許さないこの魔法陣を完成させようと感覚を研ぎ澄ませながら懸命に魔力を操る。
………………
………
……
前触れもなく全てが繋がりひとつとなった。
その刹那、目を閉じていても分かるほどの眩い光が放たれ瞼の裏が白に染まる。
光が徐々に弱まっていくのを感じ瞼を持ち上げると大気に溶け込み消えていく魔法陣が視界に入った。
「できた…」
転移陣が完成したのは2度目の春を迎える頃で、暖かな光が降り注ぐ日であった。
いつまでも…いつまでも…忘れることのない1日となるだろう。
***
「師匠」
いつものように花とお酒を供え手を合わせる。
長い黙祷の
「行ってきます」
そう言葉を残し、身体を浮かび上がらせ空へと飛び立つ。
胸に飾った青い鳥が陽の光を受け煌めくのはいつものことで、けれどそれが己の支えとなる。
ふわりと吹いた風が白い薔薇とカーネーションの香りを空へと運んだことには気づかぬまま、空を流し始めた。
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