8.書庫にて

 昨日この家へ足を踏み入れた際、玄関ホールの左手にある廊下の先に扉があると気がついた。

 円塔の位置を考えるとそこから中へ入れそうだとは思ったが、あのときは身体を休めることを優先し扉の先に向かうことはしなかったのだ。


 書斎を出て1階へと続く階段を足早に降り、未だ落ち着かぬ心と共に廊下を進む。

 そうして辿り着いた廊下の突き当たりにある扉のドアノブを回し、そのまま押し開いた。

 キィと音を鳴らしながら開いた扉の先には壁を埋め尽くさんばかりに並べられた書物や紙の数々。

 特有の香りを感じながら、その量に驚くのは当然の結果と言えよう。


 5階程の高さがある円塔は吹き抜けになっており、見上げると複数の天窓から射し込む光が交差しながら天井付近を明るく照らしていた。

 陽の光が届かない地上部分を照らすのは柱にかけられた照明で、オレンジ色の灯りが落ち着きのある空間を作り出している。

 書庫には柔らかそうなソファの他に椅子と机も置かれており、そこで書き物もできるようだ。

 壁に沿って設えられた本棚を埋めるのは書物だけではない。

 むしろ背表紙がある書物は少なく、ほとんどが剥き出しの紙だ。

 ざっと見るに、紐で纏められた物とただの紙の比率は半々で、正直に言うと既に嘆きが生まれている。

 膨大な量の書物や紙全てに目を通すには一体どれほどの時間を要するのか想像もできないからだ。

 嘆きが生まれる理由はそれだけではなく、単に必要な情報を探せる気がしないという理由もある。

 状況が状況でなければ、数多の書物類に喜びが湧くのだが、今はいかんせん時間との勝負な為、反する感情が芽生えてしまう。


(…どうしよう……書物みたいな何かをどうしよう…略して書物じゃね?)

 

 思考が纏まらぬまま思考を巡らせたことにより、よく分からぬ結論が導き出されてしまった。

 その結論を己に落とし込みながら視線を下げると、中央に鎮座している聖書台のようなものが視界に入る。

 そこには見覚えのあるノートが1冊置かれており、それに吸い寄せられるように身体が動く。

 近くで見るとノートは深緑色であることが分かり、シンプルなデザインは変わらないが書斎にあったものとは別物だと判断できた。

 そっと表紙を捲ると師匠が書いたと分かる字で“書物台の使い方”と記されていた。


───────────────────────

【僕の弟子へ】


 驚いた?

 ここは僕のお気に入りの場所なんだ。

 もちろん全て君のものだけど大切に扱ってくれると嬉しいな。


 このなかから情報を探すのは面倒だから魔道具を作ったんだ。

 君にも使い方を教えるね。


 このノートが置かれた台に魔石がついてるでしょ?

 右の魔石に魔力を流しながら探している本や情報のことを思い浮かべるんだ。

 題名、作者、内容、装丁、あとは色とか?

 鉱石について…ピアノの作り方…腹立つ奴のこらしめ方とか?

 まぁ、単語とかでもいいよ。

 そうすると本とかが出てくるからそれを引き寄せればいいのさ!

 本を戻すときは台に本を置いて左の魔石に魔力を流してね。


 簡単でしょ?

 僕が作った魔道具はすごいからね!


 思い浮かべる要素が多いほど、内容が細かいほど出てくる数は絞られるから上手く使ってね。

 “赤い本”と“魔法について書かれた赤い本”ではかなり違うよ。

 本になっていないものはこの台を使ってみれば分かるよ!


 あ!そうそう!

 先にこのノートを元の位置に置くのも忘れないで!


【君の師匠 ルークス・フェン・ヴェリタティス】

───────────────────────


 後のページは空白だった。


(出てくるって本が?紙はどうなるの?引き寄せ方が書いてないけど…)


 次々と疑問が湧き出るが、まずは一度やってみようとノートを書物台に戻し魔石に魔力を流した。


(魔法に関する本)


 カタッ カタッ カタタッ ガタッ


 深く考えもせず言葉を思い浮かべた直ぐ後に動きが見られ、その光景に驚き目を見張る。

 本棚から次々と書物や紙が飛び出しその場に浮かんでいるのだ。

 思い浮かべた内容が漠然としていた為、該当する物が大量に出てきてしまった。

 紙に関しては1枚だけペラっと浮いているものもあれば、1,000枚程がごっそりと手前に出ているものもある。

 あくまで憶測だが、あの1,000枚で1冊と認識されているように思う。 

 …広辞苑並みの厚さとなっている紙の集団は、たまたま10冊分が隣り合っているだけだと信じたい。


(えっと…魔法について、使い方)


 カタッ カタッ スッ カタッ


 いくつもの書物─面倒なので紙1枚も書物に含む─が自ら本棚に収まり、だいぶ数が減った。

 けれど、それでもまだ多くの書物が宙に浮かんでいる為ここから更に絞る必要があるようだ。

 ちなみに、500枚の紙たちや1,000枚の紙たち…そして広辞苑並みの厚さを作り出している集団は圧倒的存在感を放っている。


(どれがいいか分からない…魔法、使い方、初心者、作者ルークス・フェン・ヴェリタティス)


 検索内容を増やした上に、試しとばかりに唯一知っている名を思い浮かべてみると残るは少数となった。

 今本棚から出ているのは紐で括られた紙束ひとつと、圧倒的存在感の書物たちだ。


(…魔法、使い方、初心者、分かりやすい、作者ルークス・フェン・ヴェリタティス)


 内容をひとつ加えたことによる効果は抜群で、“分かりやすい”は厚手の物たちを払う力があるようだ。

 ひとつ思うのは自ら記した書物を分かりやすいと断言できることが凄いということ。

 そうして選ばれ、ぽつんと浮かぶこととなった紙束を自ら取りに向かってもいいのだが、せっかくならば引き寄せてみたい。

 だが、やり方が分からない為、紙束に視線を縫い止めながら方法を模索する。


(引き寄せるってなんだろう?…こっちに来てー、はちょっと違うか)


 首を捻りながら考えていると書物がスーッとこちらへ近づき、書物台の上に自ら横になった。

 感動を覚えながらその書物をおもむろに手に取り、パラパラと軽く内容を確認する。

 魔法の使い方の他に魔法の説明や魔力についても書かれており、思い浮かべた通り初心者にピッタリのようだ。


(師匠凄い)


 これだけの機能をもった道具を作れる師匠に感心しきりだ。

 あまりの字の下手さ加減に思うところはあるが…

 そんなことより書物台の仕組みに興味が湧いてしまう。

 だけどそれを気にしている場合ではない為、今はそれに関する書物を探すのは諦めた。

 今の自分に必要そうな書物を探すべく再度魔石に魔力を流す。

 だが、あちらの世界に帰る方法を探そうにもなんと思い浮かべればいいのか分からず、しばし考えることとなった。


(…この世界の名前?成り立ち?いや、そういうことじゃないな…別の世界…異世界?…異世界転移?…いや、転移かな?)


 そうして棚から出てきた書物を見ていると、そのなかに紐で綴じられたものを見つけたのでそれを引き寄せる。

 ペラリと捲り内容を確認したところ、どうやら師匠が転移魔法について纏めたもののようだ。

 浮かんだままの他の本も引き寄せ軽く目を通すと、そのどれもが転移魔法について記されたものだった。

 れっきとした本であるそれらの作者は師匠ではないと作者名を見るまでもなく分かったのは何故だろうか。


(異世界転移とは違う気もするけどひとまずこれを読んでみよう)


 とりあえず師匠が書いたものだけを手元に残し他は棚に戻ってもらった。

 次に探したのは魔物の生態が書かれた書物で、こちらも複数浮かんだなかから師匠が書いたものを選んだ。


(あとは…ルークス・フェン・ヴェリタティスについて)


………


 少し時間を空けたが、動きを見せる書物がひとつもない。

 そのことに驚きはあったもののすぐに納得した。

 大抵そういう本はその人物が亡くなってから出版されることが多く、それならばここにあるはずがないのだ。

 例え生きている間に出版されたとしても、遺品として残すには照れがあるかもしれない。

 書物に残されるほどの人物ではなかったという可能性もあるが、なんとなくそれはないように思う。


(日記はどうだろう)


………


 どうやら日記は残されていないようだ。

 元々書く人ではないのか、恥ずかしくて日記だけ処分したか、それとも隠したか…


(もしかしたら日記と呼ばないのかもしれない…)


 これだけ多くの書物があるのであれば、偉人が残した日記のような物がひとつぐらいあってもおかしくないと思う。

 もし、“日記”という名称自体が違うのであれば探しようがない。

 この世界ではそれをなんと呼んでいるか知らないのだから…


(後で探してみよう)


 気を持ち直し、まずは先ほど選んだ本を読もうとソファへ向かった。

 黒い革張りのソファーに身を沈め、手に持つのは転移魔法について記された書物。

 あちらの世界に帰る方法が載っているとは思えないが、それでも少しわくわくしてしまう。

 転移という夢物語が実際に可能な世界なのかもしれないと高揚感が生まれるのは仕方がないことだ。

 そうしてページを捲ると本というよりもメモに近いものだった。

 師匠の考察や何行にもわたる計算式、複雑に描かれた魔法陣などがそこかしこに乱雑に記されており非常に読みにくい。

 なんとか読み進めた結果、魔法理論や計算式を理解することはできなかったが転移魔法の使い方は分かった。


 自分の魔力で転移の魔法陣─転移陣を描き、出来上がった陣に目印となるものを思い浮かべながら魔力を込める。

 そうすると描いた場所に転移陣が刻まれ、そこが自分が転移できる場所になるそうだ。

 刻まれると言っても目で直接見えるわけではなく、空間そのものに残すイメージである。

 目印はそこへ転移する際の指標となるものなので自分さえ分かればなんでもよく番号やマーク、文字などでも問題はない。

 自身の魔力で陣を描くというのは相当魔力操作に長けた者でないとできないそうだ。

 その上、転移陣を描くのも目印を刻むのも同じ人物でなければいけないので多くの魔力が必要だという。

 転移陣を描く都合上、一度そこを訪れる必要があるので知らない土地へいきなり行けるわけではないようだ。


 ちなみに魔法陣を使って魔法を行使する場合は“魔術”と呼び、正確には“転移魔術”と呼ぶ。


 転移魔術の他にも別の場所へ瞬時に移動する方法があるようだ。

 魔法で新たに空間を作り、そこに出入口となる扉を設置するだけだと書かれている。

 現在地|扉|新たな空間|扉|行きたい場所

 このようにすれば扉は繋ぎの役割を持つと同時に出入口にもなる。

 こちらもまた扉を設置しに一度そこを訪れなければいけないので、思い浮かべた場所へすぐに移動できるわけではないようだ。

 用意するものは“丈夫な扉”と“空間を作れる人物”の2つ。


 転移魔術も扉も興味深いが魔法初心者の自分には難しそうなので一旦頭の片隅に置いておくとしよう。

 ちなみに師匠は作れたそうで実際この家に設置されている。

 書庫には3つ扉があるのだが、そのうちの1つがそれだ。

 試しに扉を開いてみたらその先は寝室だった。

 なんでだよ。

 寝室は書斎の隣にあるのでここからでも大した距離ではない。

 いや、まぁ、すぐにベッドへ行けるというのは便利だが、もっと有意義な使い方があったと思う。


(そんなことよりも…)


 転移について記された書物を探した際に本棚から出てきた書物たちは全て“転移魔術”について記されたものだった。

 それはつまり、世界間の転移に関する情報はこの書庫にはないということ…


(うん。仕方がないんだ。うん)

 

 嘆きと悲しみを背負いながらも他の書物に手を伸ばした。

 転移について記された書物をテーブルに置き、次に手に取ったのは魔物について記されたもの。

 魔物のことを知っておかなければ命に関わるだろう。

 その思いで気を引き締め真剣に読み進めたことで少し魔物のことを理解できた。



 魔物とは体内に核を持つ生物のことを指し、その核は魔石とも呼ばれている。

 魔物の生まれ方は、“澱みの地から生まれる”、“ダンジョンが生み出す”、“それらがつがい生まれる”の3つ。


 澱みとは、悪いものが集まりできるもの。

 人や魔物の内にも存在するそうだ。

 大気中にも存在しており、濃い澱みは澱みを引き寄せやすいのだとか。

 師匠曰く、なんか悪いもの。生まれないようにする方法は誰にも分からない。

 詳しい説明は記されておらず、ふんわりとしか分からなかったが、なんとなくは理解できた。


 多くの澱みが一定の場所に集まるとどろりとした沼地のようになり、それを“澱みの地”と呼ぶ。

 そこからは瘴気と呼ばれる霧のようなものが放たれ続け、それは大地にも生物にも悪影響でしかないそうだ。

 澱みの地は瘴気だけでなく、魔物を生み出すことがあるとのこと。

 その為、もし澱みの地を見つけた場合は早急に報告するのが常なのだそうだ。

 報告後は国やギルドが隊を組み浄化するのが基本となっている。


 稀に魔物が持つ強さや性質が大幅に強化された個体が生まれることがあり、それらは“特殊個体”と呼ぶ。

 魔物の性格は様々で、見境なく襲ってくる魔物もいれば、のんびりと暮らし危害を加えてこない魔物もいるそうだ。

 ただ、どのような性格の魔物であっても澱みの地から発生する瘴気を多く浴びると凶暴化し暴れ回るので注意が必要とのこと。

 力を持つ魔物が凶暴化したときの被害は甚大で、過去には街がいくつか無くなったこともあるとか…

 澱みの地から生まれる魔物は凶暴化していることがほとんどで、そういった意味でも澱みの地は危険視されている。


 魔物は核が壊れると死ぬようだが、その核は魔道具や魔法薬などに使用されるので需要が高い。

 その為、できるだけ核を傷つけずに倒すのが望ましい。

 武器や魔法を扱う魔物も存在するそうで、核を持たない普通の動物と比べると倒す難易度は高い。


(なるほどね…魔物怖い…)


 紙束をテーブルに置いた後、目を閉じて普通のうさぎと斧を持ったうさぎを想像してみる。

 確かに倒す難易度にかなりの差が生まれるだろう。

 両手で顔を覆いながら項垂れる。


(もうここに引きこもりたい)


 だが、2つの世界間を移動する方法についてここに手がかりがないのであれば他を探すしかない。

 そもそも食料が無限ではない以上、外に出てどうにかする必要がある。

 所詮叶わぬ願いだ。


(魔法を使いこなせるようになれば少しは気が楽になるかな)


 戦うにしても逃げるにしても魔法を使えれば自身の生存率は上がるだろう。

 そう考え魔法について記された書物に手を伸ばしたとき、ふと喉の渇きを感じた。

 そういえば朝食以降何も口にしていないと思い至る。

 見上げると天窓から射していた光は既になく、星の煌めきが見えた。


(お?もうそんな時間?)


 時間を忘れ読みふけていたようで外はすっかり暗くなっていた。

 師匠の字を解読するのに思いのほか時間がかかったことが原因だと思われる。

 手紙の字は普通に読めたのに、転移魔術について書かれたものは文字と呼んでいいのか迷うレベルだ。

 だが、転移魔術の書物を読んでいて分かった。

 おそらく師匠は天才型の人間だ。

 まだ確信はできないが、この書庫にある紙たちは全て師匠作。

 日々のなかで記したものや後から纏めたもの、その全てがここに残されているように思う。

 それならば紙ばかりの書庫にも頷ける。

 後から本にするには量が膨大すぎて面倒だ。

 そんな暇があるなら何かの研究を進めるなり、美味しい物でも食べた方が有意義だと考えていそうである。

 字が下手なのはとにかく記すことに重きを置いたからに思う。

 あくまで自分が思う天才型のイメージではあるが…


(なんか凄そうな人を師匠と呼べるのは嬉しいね)


 私が弟子で申し訳ない気持ちはまだあるけれど、誰に迷惑をかけるでもないので問題ないだろう。

 そんなことを考えながら再度魔物について記された紙束を捲った。

 下手くそな字に苦笑いを漏らしながら紙から指を離し立ち上がる。

 読み終えたものを書物台で返却し残る紙束を持って書庫を後にした。

 読書の続きは明日だ。

 そうして喉を潤すべく足を進めた。


(というか、書物みたいな何かの単位は1“冊”なのだろうか…)




***




 キッチンへ辿り着き、グラスに注いだ水を飲みながら読書中、食後、風呂上がりと飲み物が欲しい場面を思い浮かべる。

 やはり水以外も飲みたい。


(キッチンにあるものをまだ把握できていないしなぁ)


 家内探索した後はキッチン内にあるものを改めて確認する予定だったが、師匠からの手紙と書庫に気を取られすっかり忘れていた。

 それなので、未だに食料やキッチンについて把握できていないのが現状だ。


(お茶だけでも探すか…夕飯が先か…)


 明日は絶対お茶を飲みながら書物を読みたい。

 その思いで先にお茶を探すことにした。


 結果、茶葉はあった。

 種類が多く、選ぶだけでも楽しめそうだ。

 茶葉だけではなく数種類のコーヒー豆も見つけられたのは嬉しい誤算だ。

 コーヒーはないと思っていたのでお茶一択だったのだが、飲めると分かった途端カフェオレを無性に飲みたくなった。

 ただ、豆をどうすればいいのか分からない。


(豆を炒るんだっけ?フライパンでできるのかな?その後はどうすればいいの?すり潰す?)


 などと考えていたらコーヒーメーカーに似た魔道具が普通にあった。

 コーヒーには詳しくないので棚の1番手前にあった豆を魔道具にセットする。

 カフェオレを作る機能はないので、ミルクを温めコーヒーと混ぜるのは手作業だが今はそれも手間と感じない。

 そうして出来上がったカフェオレを一口飲んでみると…


(美味しい)


 ほっと一息。

 まろやかなミルクの甘味の後にほんのりと覗くコーヒーの苦味。

 この豆にして正解だったようだ。

 いや、たぶん他の豆でも美味しいだろうけど。

 ちょっと知ったかぶってみたかっただけなんだ。

 そんな言い訳を心の内でしながらようやく夕飯作りに取りかかる。


(さてと、今日の夕飯はどうしよう)


 茶葉探しとカフェオレに時間を使ってしまったので今から手間がかかる料理を作りたくない。


(簡単なもの…肉を焼くか)


 煮るのも炒めるのも面倒なので焼くことにした。

 魔道食料庫から取り出したのはミノタウロスの肉。

 おそらく牛肉のような味だろうと判断した。

 まだ生で食べるのは怖いのできちんと火が通るように通常のステーキよりも薄めに切る。

 包丁の背で叩いて塩胡椒、そしてフライパンへ。

 ジュワーッと肉が焼ける音につられお腹が鳴った。

 両面がこんがりと焼けたら塩で味を整え完成だ!

 スープは朝の残りを温め直し、主食は白パン。


「いただきます」


 ミノタウロスは初めて食べるがやはり牛肉に近い味わいで違和感なく食べられる。

 本当は何かソースが欲しいところだが作るのが面倒だったので仕方がない。

 明日はもう少し手間をかけた料理を作ろうか…


(いや、明日になってみないと分からないなぁ)


 気力や体力、心がどうなっているか予測不能。

 きっとしばらくは明日の自分を想像することが難しいだろう。

 それでも頑張ろうと心に決め食事を終えた。

 食後は昨日から楽しみにしていたお風呂だ。

 食事の前に浴槽にお湯を流しておいたので、向かったときには充分貯まっていた。

 急いで服を脱ぎ、雑に身体にお湯をかけた後湯船に浸かる。


(あ〜〜〜)


 広い湯船に一人で浸かるのはなんとも贅沢だ。

 そうして書物を読み凝り固まった身体と心をほぐした。

 お風呂の効果は凄いなぁと感心しながら閉じていた瞼を持ち上げ湯船から出る。

 

 お風呂の後は寝るだけなので結局水を飲み、寝室へと向かった。

 なんと今日はちゃんとベッドで眠れる!

 師匠作のあの移動扉を使ったときに寝室に出たのでついでに場所を確認しておいたのだ。

 3人は優に眠れそうなほどに広いベッドは見ただけでふっかふかだと分かる。

 だから思わず飛び乗るのは仕方がないことだ。

 柔らかすぎて眠れるか心配する程だったがすぐに眠気が襲いそのまま夢の中へ…

 微睡のなか生まれたのは明日への不安と師匠への感謝だった。

 ちなみに部屋の照明は普通にスイッチで消せましたねぇ。

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