第11話
僕が守るから
その夜バーに訪れた梨花は様子がおかしかった。ソワソワと振り返りながらドアを締め、指し示された席ではなく隅っこに腰掛けている。よく見るとカタカタと震えている。
ピンときた五木はドアに閉店の札をかけ、チョコレートをいつものように梨花の前に置くと、他の客の相手に努めて梨花をそっと一人にした。
落ち着いてきた梨花はチョコレートを一粒づつ口の中に放り込んでいく。甘さが疲れとあの事件をトロかしていった。
他の客が全員会計を済ませて帰っていく。終電の時間を過ぎいつものようにバーに取り残された二人。
二人きりになって、片付けを軽く済ませて、手持ち無沙汰になった五木は梨花の前にスツールを置いて腰掛けた。
シーンと沈黙が二人を包む。梨花は何度か話しだそうと口をパクパクと動かした。
声がかすれて出ないのだ。カタカタと震えは止まらない。
あまりに異様な雰囲気の梨花に五木は優しく問いかけた。
「いかがなさいましたか? 髪もお団子のままだし、スーツも乱れてますよ」
その言葉にビクリと肩を震わせた梨花は、あの・・・と話しだした。
いつも愚痴っている先輩の石井さんに襲われかけました。レイプされそうになったんです、玉場の更衣室で着替えてるときに押し入ってきて、体を触られて。もうあの職場にはいけません。行きたくありません。
すがるような瞳で五木をみつめ、ぶわりと涙が溢れ出した。
五木の優しい雰囲気に日常を取り戻し、ホッとしたのである。
五木は穏やかに笑みを浮かべて聞いてくれていたのだが、流石に表情を固くした。
それは穏やかな話ではない。警察に相談する案件だ。逮捕できるかもしれない。
「警察に通報しましょうか?」
うつ向いて泣いている梨花にそう優しく声をかける五木。梨花はふるふると首を横に振った。
大げさにしたくないんです。職場の先輩ですし。
そうとつとつと訴える梨花に五木はそれ以上言葉をかけることができずにいた。
立ち上がった五木はホットミルクを手早く作り、梨花の前に差し出した。
「召し上がって下さい。ホッとしますよ。サービスです。怖かったですね。もう大丈夫」
そして真剣な目になり、梨花を見つめていった。
「僕が守るから」
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