第10話

MJ5



 梨花はまかないを任されてバターチキンカレーを作った。うまくできたのでみんなに褒めてもらった。


 だが食べている最中に石井の様子がおかしくなった。ひくひくと肩を震わせたかと思うと噴水のように口から食べたカレーを吹き出した。嘔吐したのである。


 キッチンは阿鼻叫喚。てんやわんやの大騒ぎだ。食中毒患者を出したとなれば、レストランは営業停止、お客様に知られてしまえば、お客様からの信頼を失い、客足は途絶えてしまいます。


 結局、インフルエンザにかかっていた石井は更衣室に隔離されることとなった。


 出勤も一週間停止である。


 カレーまみれになった石井を献身的に介抱している梨花はほっと胸をなでおろす。


 自分のせいかと思ったが、ただのインフルエンザ。黙って、梨花に一目会いたさに出勤してきて、インフルエンザに掛かっていることを黙っていたのである。自業自得だ。


 こうやって職場に迷惑までかけて石井の評判は地に落ちた。


 仕事熱心といえば聞こえがいいが、ただの変態ストーカー寸前である。


 梨花が介抱している間に他の先輩ソムリエからMJ5との不名誉なあだ名を送られた石井であった。


 マジでジェノサイドする五秒前、その頭文字を並べた造語である。うまいこと言ったもんだ。


 後に知った梨花は五木にネタとして話して聞かせた。大ウケである。五木はゲラの気質があった。


 いつも微笑んで大笑いをこらえているのだ。


 腹を抱えて笑う五木にぽかんとした梨花は、つられて大笑いした。


 バーは二人の大笑いに包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る