第9話

疲労回復スペシャル



 疲労回復スペシャルをことりとコースターの上に置く五木、召し上がってみて下さい、と言葉を添える。


 一口飲んだ梨花は酸っぱさに口をとがらせた。


 んーっと唸ってから美味しいとこぼす。


 レモンの酸味が効いた強炭酸のカクテル、クエン酸が疲れを癒やしていく。


 肩の力を抜いてクイクイと飲み進める梨花。


 おいしいおいしいと顔が物語っている。その飲み方に納得のいった五木はまた優しく微笑んで見守っていた。


 終電の時間を過ぎ、客はいない。二人きりだ。


 そっと様子をうかがっている五木に梨花はふんわりと笑みを見せた。


 ほっと息をつく五木に笑みがますます深くなる。言葉はなくともお互いの気持ちが通じ合うのを感じた。


 二人の間に愛が育まれている、貴重な時間だった。


 一杯で飲むのをやめて梨花は話しかけた。


 明日はまかないを作るんですけど、食べたいのってどんなものですか?


 砕けた口調で問いかける梨花に考える風情を見せた五木は応えた。


「バターチキンカレーですね、ご飯にかけて食べたいです。がんばってくださいね」


 おかわりと、初めてのおかわりを請けた五木は手早く用意して差し出す。


 またクイクイと飲む干す梨花に微笑んだ五木であった。


 疲労回復にはこの笑顔も十分役割を果たしている・・・そう自覚した梨花だった。


 お会計を頼んでいつもの二千円を支払いバーを後にした梨花であった。


 またいらしてくださいね、お待ちしております、お気をつけてと見送られスキップを踏みたい気分で梨花は家路をたどった。軽い足取りであった。

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