第7話
通勤
朝の通勤ラッシュを避けて早めの電車に乗るのが梨花の日課である。
最寄り駅に着くと定期で入り、ホームにぼんやりと立つ。眠い。
電車を待っていると肩をぽんと叩かれた。
振り返ると立っていたのはスーツに身を包んだ高身長のイケオジ、梨花の職場の先輩である。
「おっはよ、リカちゃん。寒いね」
ニヤリと微笑みながらそっと耳元で囁かれる。梨花の職場の先輩である石井は、同じ列車に乗るために梨花の隣に立つ。
誰もが振り返るような華のある顔立ちをしている。
梨花は心底ウンザリしながらいつもの列車を待った。
電車に乗り込むとシートに座る。ほっと一息つくと、隣には石井が腰掛けている。
梨花は気にしないようにして目を閉じた。すぐに睡魔が襲ってくる。
コックリコックリと船を漕ぎだす。温かい列車内は暖房が効いていて眠気を誘う。
「ついたよ」
と頬をツンツンとつつかれて、梨花は目が覚めた。
「はいっ」
慌てて電車を降りる。
駅直結のホテル内のレストランが梨花の職場だ。
通勤はすごく便利だ。雨にも濡れなくて住むし、寒くないし暑くもない。
並んで歩く石井が梨花をチラチラと見るのを感じながら、厨房に入る前にロッカールームへ着替えに行った。白いコックスーツに着替え終わると厨房で朝のミーティングが始まる寸前であった。
慌てる梨花の隣には当然のように石井の姿がある。心底うんざりしながら顔に出さないように気をつけて立ち続ける梨花であった。
石井と通勤電車で一緒になりだしてから三年が経つ。今はすっかり待ち伏せられている。怖い。職場も一緒だし先輩だし、縦社会男社会の職場である。立場は弱い。
家までつけられて部屋の前まで送ってもらったこともある。
コーヒーを飲ませてくれ、トイレを借りさせてくれ、と下心見え見えで迫る石井に心底恐怖した。誰にも相談できずにいる。既婚者から言い寄られてるなんて厄年だな。時間があれば厄払いに行くのだが。毎日忙しいのに余計なストレスを抱え、梨花は心底疲れきっていた。
毎日のようにバーでは石井のことを愚痴っている梨花だった。
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