第5話

モヒート



 すっかりバーの常連になった梨花がいつものように仕事を終えて、バーにあらわれた。


 夏が過ぎ短かった秋も冬の匂いがするようになり、コートを着た人がちらほら現れ出した11月の末日、バーの木製の扉が開いた。


 いつものように姿を表した梨花はくたくたっとバーテンダーの指し示す席に座ると、五木の差し出す温かいおしぼりを両手でうやうやしく受け取った。


「いらっしゃいませ。お仕事お疲れ様です」


 と、笑みを浮かべて五木は優しい通る声で出迎えた。


「こんばんは。今日も疲れちゃいました。クッタクタです~」


 少し甘えた鼻声で梨花は応じた。


「今日はモヒートにします」


 小首を傾げながら、できますか?と梨花はオーダーした。


「かしこまりました」


 と五木アポロチョコを梨花に差し出した。


「いつものサービスです。疲れがとれますよ」


「ありがとうございます」


 とさっそくアポロを一粒つまんで口に放り入れる梨花であった。


 頬杖をつきながらイツキを見つめるチョコを味わう梨花を、五木は優しい眼差しで見つめながら手早く氷を砕いていく。グラスに三温糖とライムを入れてすりこ木でライムを潰し、スペアミントを優しく潰していく。砕いた氷を入れ、次にラムを注ぎ、炭酸水を注いでいく。よくステアして出来上がったのは美味しそうなモヒートだった。梨花の前にコースターを置きながらオマタセシマシタと言った五木は優しく微笑んでいた。出来上がったモヒートをコースターの上にコトンと置く。


 一口のんだ梨花は美味しいですと解けるように笑った。頷いて良かったと応じる五木であった。


 爽やかな炭酸とスペアミントの風味が爽やかな夏カクテルだけど、梨花はモヒートが好きなので、冬の暖房で火照った体を癒やしていた。

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