第2話

自己紹介

「お仕事帰りですか?」


 バーテンダーが問いかける。


 梨花は疲れ切ってヘトヘトだったので、小さくコクンとうなずいたにとどめた。


 でも仕事の愚痴を聞いてもらえるなら、と小さな声で静かに話しだした。



 私、今日誕生日だったんです。でもお祝いしてくれる人もいなくて忙殺されてて、調理師をしてるんですけど、終電でやっと帰ってこれたんです。


 昨夜は、職場に泊まって仕込みに追われて、あ、ホテルで働いてるんですが。


 ほんっとに忙しくて、毎日仕事ばかりで、お金は貯まるけど、両親も旦那も子供もいないので、なんのために生きてるのかなって。今日はここを見つけてフラフラと入ってしまいました。一見さんお断りじゃないですよね? 最近開店されたんですか?



うんうんと偶にうなずきながら真摯に耳を傾けてくれるバーテンダーに最後は泣きそうになりながら、とつとつと話す梨花。神妙な顔でうなずいたバーテンダーはふわりと笑みを浮かべながら応じた。


「はい。昨日オープンしました。一見さんお断りではないので安心してくつろいでくださいね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る