話しかける。

とぼとぼと登ってきた坂道を下る。

8m程下り歩くと、木々が視界に入ってくる。

「いつもありがとう。元気でいてくれて。」

「いつもありがとう。あなたらしくいてくれて。」

「あなたが元気に生きていてくれるだけで、元気を頂く人が沢山いる。」

不思議と、木々は枝を揺らし、喜んでくれているように見える。

「かわいいね。若いから?無邪気に表現するのね。」

大きく揺れていた木が、急に揺れているのを辞めてしまう。

「ありがとう。ありがとう。」

ウタヒを唄って、木々の合間を通る時、随分と空気が柔らかく感じる。声を掛けながら、お礼を言いながら、坂を下る。

「ねぇ。私、知ってるよ。私、知ってる。」

「あなたたちのお父さん。」

「山がね。『私の子供たちを虐めるなぁー。』って。『私のかわいい子供たちを虐めるなぁー。』って、怒っていることを。」

「お父さんの山が、人間をカンカンに怒っているのに、そんな人間の私たちを助けてくれて、癒やしてくれて、幸せにしてくれて、ありがとう。」

「ごめんね。私達、人間のせいで、嫌な思いをさせてしまって、ごめんね。」

「それでも、元気で生きてくれて、立派に育って、ありがとう。」

上を見上げて、木々に向かって話しかける。

「キィー。キィー。」と、気が大きく揺れて、軋む音が、目の前に響く。

「ありがとう。」声を掛けると今度は、後ろの方から、「キィー。キィー。キィー。」と、木の軋む音が聞こえる。「ありがとう。」

「私達人間を幸せにしてくれて。」

「あなたたちが生きてくれているだけで、私達は幸せなのよ。」

「あなたたちが二酸化炭素を吸ってくれて、酸素を吐き出してくれる。私は、その酸素をあなたたちから頂いて、生かさせて頂いているの。」「ありがとう。」

遥か彼方まで、背を伸ばす木々たちは、一斉に、柔らかな波動を一面に降り注ぐ。

ミスト状の柔らかな木々の優しさが広がる。

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ウタヒ 一粒 @hitotubu

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