ヘタレの第一歩

 道の天辺。遥拝所に辿り着き、設置されているベンチに腰掛ける。

「する」と決めてきた筈なのに、気恥ずかしい。ベンチに腰掛けたまま、言い訳めいた事をぶつぶつつぶやく。

 目の前には、遥か彼方にそびえ立つ山。そして、足元は滑り落ちるかの如く、急な斜面。後には、先程、登って来た坂道と、手入れをされた杉の木ばやし。誰も居ない。人っ子1人、見える気配すらない場所で、しこたま言い訳を口にした後、カタカムナのウタヒの書かれた紙を鞄から取り出して、口ずさむ。言い訳通りのたどたどしさと、自信のなさが、現れる。小さな声。第一首を口にしている最中でさえ、今にもリタイヤしたい。したいのである。羞恥心と共に、第二首、第三首、第四首を迎えた頃に、「ピー。ピー。」と、右腕後の方で鳥の鳴き声が聞こえる。たまたまだろう。第五首、第六首と進み、さらに鳥の鳴く声が聞こえる。聞こえるだけ、姿は表さない。第四十八首、第五十三首、第六十三首と進み、唱える。

結局、先生の様にウタヒを唱えたら、鳥が集まり、大群が押し寄せ、頭上を覆うなんてことは起きず、カラスが目の前を低空飛行するなんて現象も現れなかった。ただ起きていたのは、裏寂しい虚無感と、普段練習もまともにしない者が駅前で、突然歌いだして見向きもされず、「何やっているんだろう?私。」と言う、恥ずかしさが込み上げて来るのと同じ様に、カタカムナのウタヒを唄う。

なんとも言えないような、間の取れないような空気をあびた。私だけのライブ。

失敗も成功もない。ほんのりとした、虚しさを漂わせた私が1人座っていただけ。

 唄い終わって、吹きすさぶ風に、寒さを感じ、目の前に映る山に「聞いてくれてありがとう。」感謝を伝え、「練習していないしね。」「たどたどしかったよね。」

私は、始まりと終わりを言い訳にして、唄いを間に挟んだ。人間性の問題だろうか。。。

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